ツインクロス

まだまだ陽の高い時刻。
梅雨の中休みとはいえ、既に真夏の日差しが照りつけていて、ジリジリとした暑さが二人を包んでいた。
道場から家までの懐かしい道のりを、二人並んでゆっくりと歩いていく。

嫌でも(よみがえ)るのは、あの日の出来事。
その時の光景は、今でも鮮明に冬樹の頭に残っていて。今にもこの道の向こうから、雅耶の母親が慌てて走ってくる姿が見えてくるようで…。

冬樹は、ズキズキと痛みながら自分の鼓動が早くなるのを感じて、左胸の前にぎゅ…っと握り拳を当てた。
(雅耶が一緒にいてくれて、逆に良かったかも…)
一人だったら、この場から動けなくなっていたかも知れない。

冬樹は、気を紛らわすように努めて明るく口を開いた。
「今日は、雅耶の意外な一面を見せて貰ったって感じだな…。意外にカッコ良かったよ」
「そうか?…って!『意外』じゃないだろ?『いつも』だろーっ?」
雅耶は冬樹の様子には気付いていたが、敢えてそこには触れず、わざと明るく話に乗った。
そんな雅耶の気遣いに冬樹も気付きながら、心の中で感謝すると、二人で声を上げて笑い合った。
「でも、優勝なんてホント…凄いな」
「いや…たまたまだよ。それに小さな大会だしな。高校の方じゃ、こんな風には行かないよ」
「成蘭の空手部って強いらしいね」
「んー…まぁ、実力ある先輩達が集まってるかな。でも、空手部がある高校自体少ないからね…」
「そうなんだ…」

何気ない会話をしながら、歩いて行く。
少し会話が途切れた後、不意に雅耶が足を止めて口を開いた。

「お前は…?今日の試合観て、また空手やってみたいとか思わなかったか?」
思いのほか、真面目な顔して立ち止まっている雅耶を振り返ると、冬樹もゆっくりと足を止めた。
「…駄目だよ。オレのはもう空手なんかじゃない…。今日の雅耶の試合観てて余計にそう思った」
「何で…?」
真っ直ぐに問われて、冬樹はいたたまれずに視線を逸らすと言った。
「オレは『空手』を既に(けが)しちゃってるからさ…」
「冬樹…」
「今まで散々…喧嘩とかに利用してきたんだ。既にただの暴力なんだよ。それこそ、柔道部の顧問にスカウトされちゃう位、自己流の混ぜこぜでさ…」
そう自嘲気味に笑った。
「………」
「でも、だからこそ…今日お前の試合観てて、オレ感動したのかも。凄く格好いいって…そう思った…」

それが、自然に出てきた自分の本当の気持ちだった。