ツインクロス

その後、地元の駅まで帰って来ると、冬樹はバイトに入る時間が迫っているというので、そのまま駅前で別れた。
バイトなんかしていたのか…という驚きも、先程聞いたひとり暮らしの件を考えれば、思わず納得してしまう感じだった。
(苦労…してるんだな。冬樹…)
自分なんかは、毎日苦労もせずに普通に学校へ行って、放課後には好きな空手をやって。家に帰れば風呂は沸いているし、ご飯も出てくる。そんな恵まれた環境が、当たり前にさえなってしまっている。そういう自分が恥ずかしいと思った。
(自立をして、しっかりやっている冬樹を俺も見習わないといけないな…)
そんなことを改めて考えつつも。
冬樹が何処で何のアルバイトをしているのか、慌てて行ってしまって聞けなったことが、少し心残りな雅耶だった。

遠く人混みに紛れ、後ろ姿が見えなくなるまで冬樹をそのまま見送ると、雅耶は一人ゆっくり家へと向かい歩き始めた。駅前通りに差し掛かった所で、ふと足を止める。
(そうだ。今日は珍しくまだ早いし、直純先生のお店に顔出してみようかな?オープン以来行ってなかったし…。確かここから近かった筈だ…)

雅耶は方向を変えると、賑わっている細い路地に入っていった。





『Cafe & Bar ROCO』店内。

「お疲れ様ですっ。すみません、遅くなりましたっ」
店に入るや否や、カウンター内にいる仁志と、ホール側に出ていた直純を視界に入れて冬樹は慌てて挨拶をした。
「おうっ冬樹くん、お疲れっ」
仁志は作業しながらも、軽く手を上げて挨拶を返してくれる。
直純は息を乱している冬樹を見て笑うと、
「お帰り、冬樹。そんなに慌てなくっても大丈夫だって」
そう、優しくフォローを入れてくれる。

今日は、前々から放課後に清香の所へ寄るつもりでいたので、いつものバイト開始時刻よりも遅めにして貰っていた。だが、既にその時刻5分前だ。
基本的にこのお店は、直純と仁志で経営しているので二人がルールとなっていて、時間にはあまり煩い方ではない。だが、冬樹自身がその辺はきちんと守りたい(たち)だった。

冬樹は「着替えてきますっ」と一礼すると、奥の事務所兼更衣室へと急ぎ足で入って行った。