「んー…確かに。こうも男ばっかりの中だと、そういう輩も稀にいるらしいからねぇ」
いわゆる男同士の恋愛というやつである。
「結構、色んな噂とか耳にするよ。例の…溝呂木先生みたいなアブナイ人もいるしさ。実際、ヤバイって」
あれ以来、冬樹は特に何も言い寄られたりはしていないみたいだが。
だが、冬樹に限らず、見た目綺麗だったり可愛い男子には、校内でファンがいたり、隠し撮りブロマイドなんかも裏で高値取引されていたりするというのだから驚きだ。
「男子校の中で潤いを求めるなんて不健康だにゃー。俺は彼女が欲しい!!」
長瀬はワザとらしく拳に力を込める仕草をしながら言った。
「ははは…そんなリキんで言うことかよ」
そのおどけた様子が可笑しくて雅耶は笑ったが、長瀬は不満気に口を尖らせた。
「なによォー。雅耶クンは彼女欲しくないっていうのォー?」

(…っていうか、彼女欲しいとか言う前に、そういうツッコミ方を長瀬はちょっと変えた方が良いんじゃ…?)

とか思っている雅耶だったが、口には出さず苦笑いを浮かべる。
「俺は別に…。そーいうのは追い追いでいいよ。まぁ…その時が来たらって感じかな?」
「何その余裕のお言葉。キィー!!ムカつくわっ」
すっかり板についた長瀬のオカマキャラ全開の反応に、雅耶は耐えきれず声を上げて笑った。




だいぶ空き始めた食堂で、冬樹は少しペースを上げて食事をしていた。

(急いで食べないと、授業始まっちゃう…)
今日は昼休みに入ってすぐに保健室へ向かうと、個別で身体測定をして貰ったのだった。
(何だか清香先生には、すっかり世話になりっぱなしだな…)
申し訳ない気持ちで一杯だが、正直有難いとも思う。中学時代は、とことん身体測定などからは逃げて来たのだ。実際、学校自体サボりぎみだったのだが。
身体測定などの協力は勿論大きなことだが、清香がいることで独りじゃないという安心感が生まれたこと、そして何より素の自分で話せる相手がいるということが、冬樹の中で大きな変化をもたらしていた。
(不謹慎だけど…バレたのが清香先生で良かったな…)
今更ながらに、つくづく実感する。

本当は秘密を知られた後も、ここまで清香との距離を縮めることになるとは、冬樹自身思っていなかった。
今まで、敢えて他人との距離を取って生きてきた冬樹には、ある日突然、秘密を共有出来る存在が出来たからといって、彼女とどう接したらいいのか分からなかったのだ。だが、清香はそれらの気持ちも察して、少しずつコンタクトを取り続けてくれた。
保健医でありながらも、スクールカウンセラーも兼任しているという清香は、何かと称して冬樹を頻繁に自分のもとへと呼び出し、話す機会を作ってくれた。そんな中で、少しずつ何気ない会話を続けるうち、冬樹にとって清香の傍は居心地の良い空間へと変わっていったのだった。