(どーせね。色々信用されてないんだよな…俺は…)
内心で半ば自棄になっていたが、待っている間に時が経つにつれ、別に今はそれでもいいか…と、思うようになっていた。
(再会出来ただけでも、奇跡みたいな感じだからな…)
家族を失ったことで、冬樹が変わってしまう程傷付いて来たというのなら、自分が少しでも彼の力になれればいいな…と、そう思った。

15分程待つと、冬樹が広場に姿を現した。
大きめのパーカーにジーンズというラフな服装。制服以外の冬樹を見たことが無かったので、何だか新鮮な感じがした。
冬樹はこちらに気付いていないのか、辺りをきょろきょろ見回している。その様子が、いつかの情景と重なる。
(あ…でも、一度駅前で見掛けたんだよな…)
転んだ男の子を抱き起こして、優しく慰めていた冬樹。
その時のことを突然思い出して、雅耶は固まった。
(そうだ…あの時、冬樹は子どもには優しく笑い掛けていたんだよな…)
学校では、笑顔を一度も見たことがないけれど。
その時の冬樹が、本当の…素の冬樹だったら良いなと雅耶は思った。

「冬樹っ」

辺りが薄暗いせいか、こちらに気付いていない様子なので雅耶は立ち上がると軽く手を上げて声を掛けた。すると、それに気付いた冬樹がゆっくりと近付いて来る。

「休んでるとこ呼び出して悪かったな。はい、これ…」
雅耶は冬樹に鞄を差し出した。冬樹は、それを両手で受け取ると、
「…わざわざ良かったのに…」
と、言いつつも小さく「…ありがとう」と付け足した。
相変わらず無表情ではあるが、冬樹の口からそんな言葉が聞けただけでも、鞄を持ってきた甲斐があったと思ってしまったことは、流石に秘密だ。
「昨日は大変だったな…。今日休んだのは、どこか調子悪かったのか?」
「…別に」
途端に目を逸らされる。何だか面白くない。
「お前、無茶しすぎだよ。昨日の昼休みのも一悶着(ひともんちゃく)あったんだろ?」
そう言うと、驚いたようにこちらを見た。冬樹は無言だったが『どうしてそれを知っているんだ?』…と、瞳が訴えていた。
「今日学校では、お前の噂で持ちきりだったんだ。あの柔道部の溝呂木って先生は、昼休みにお前のことを呼び出した上級生を、お前が返り討ちにしていたその戦いっぷりに惚れたんだって。流石に先生本人がそんな事言って回ってる訳じゃないだろうけど、一部では…ちょっとした噂になってた」
「ふぅん…」
冬樹は興味なさそうに視線を下げた。
「でも今回の柔道部の勧誘は、ちょっとやりすぎだったって学校側からも注意があったみたいだよ。お前、今日休んでたし…」
「………」
冬樹は視線を落としたまま、黙って聞いている。
「でも…何でお前が入学早々上級生なんかに呼び出しを食らうんだ?そいつらと何かあるのか?」
雅耶としては、冬樹を心配して出た言葉だったのだが、冬樹は一瞬ビクリ…と、身体を震わせると、
「…雅耶には関係ない」
そう言って背を向けた。
流石に雅耶もその言い方にはカチン…ときて、反論しようとした。だが、
「お前…」
「関係ないって言ってるんだ!」

突然声を荒げた冬樹に、雅耶は言葉を続ける事が出来なかった。