「お!カレー美味そうだなっ。今度俺も食べてみようかなー」
にこにこと人懐っこい笑みを浮かべてくる。
「………」
冬樹は何も言わずに、思わず止まってしまっていた手と口を動かし始めた。そんな冬樹の様子を見て雅耶は微笑むと、自分も「いただきます」と手を合わせて食べ始めた。

(何だか気まずい…)
目の前の雅耶は、何を言うでもなくただ食事をしているだけなのだが、時折こちらに投げ掛ける視線に逆に居心地の悪さを感じて、冬樹は自然と手と口の動きが早くなっていく。
そんな冬樹の様子を見て雅耶は、
「お前…食べるの早いなー」
とか呑気に感心したりしている。

(お前のせいだ!お前の…っ)

最近の雅耶は、わざと自分の目の前にやってくる。話し掛ける時も、今のようにただ食事をする時も…だ。
(確かに、横や後ろから声を掛けられても、聞こえないふりしてたのは事実だけど…。いい加減…避けてるのくらい分かれよな…)
そう、心の中で愚痴りつつも。正面に来られると、露骨に邪険には出来ない冬樹だった。

「あれ?もう行くのか?」

早々に食べ終わり、席を立とうとする冬樹に雅耶が声を掛けた。冬樹はチラリと雅耶の方を見やると、
「…他の奴が座るだろ?」
そう言って食器の乗ったトレーを持つと席を離れた。その言葉に雅耶が周囲を振り返ると。
「ん?もしかして、ソコ空いてる?」
後方に長瀬が立っていた。


「もしかして、冬樹チャン譲ってくれた?」
冬樹の座っていた席に長瀬がトレーを置きながら言った。
「ん…そうかも」
ご飯を口に運びながら雅耶が答える。
「優しいのね、冬樹チャン♪…で?少しは話出来るようになったのか?」
気にしてくれているのか、長瀬はウインクしながら箸を手に取り言った。
「うーん…。まぁまぁ…?かな…」
実際、たいした話はしていないのだけど。
「でも、無視されてる訳じゃないみたいじゃん。もともと口数少ないだけなんじゃないの?」
「うーん…そうなのかなー」
そんな事を話しながら、食事をしていたその時だった。

「あれっ?」
「…ん?どうした?」
長瀬が突然、何かに気付いたように声を上げたので、その視線の先を追って雅耶も後方を振り返った。
「あれって…冬樹チャンじゃん?」
そう言って指差した先には…。
数人に何やら囲まれてる冬樹が見えた。

「…あれ、上級生か?」




食器を返却して、食堂を後にしようと冬樹が出口へ向かっていたその時だった。
突然、行く手を遮るように横から人が出てきて足止めを食らう。
(何だ…?)
不審に思って、その人物を見上げると。
「よぉ…」
高校の制服があまり似合わない、ゴツイ男が不敵な笑みを浮かべていた。その顔には見覚えがあった。

「………」

冬樹が驚きで一瞬固まっている間に、両サイドを固められる。その二人の顔にも見覚えがあった。
(こないだの、カツアゲ三人組…)
「こんなトコで再会するなんて、奇遇じゃねーか」
嬉しそうにニヤリと笑うゴツイ男と共に、両端の二人も小さく笑う。その隙に、両腕は逃げられないようにしっかりと掴まれてしまった。

「ちょっと付き合って貰うぜ。正義感の強いおチビちゃん」

不穏な空気を感じながらも、周囲に迷惑は掛けられないと、冬樹は大人しくついて行くことにした。