ツインクロス

「お前が…お父さんを…?」

目の前で笑顔さえ浮かべているその男を、夏樹は驚愕の表情で見詰めた。


お父さん。

お母さん。

ふゆちゃん…。


「ゆる…せない…。お前だけは、絶対!許せないっ!!」

感情が(たかぶ)って、夏樹は大声を上げると目の前の男、神岡を睨みつけた。
掴みかかりたい衝動に駆られるが、勢いよく前へと出ようとするその夏樹の両腕を男達が力一杯押さえつけている。
目の前に仇がいるというのに、一矢報いることさえ出来ず。
何も出来ない己の無力さに、悔しくて、哀しくて…。その大きな瞳からは、涙がぼろぼろと零れ落ちていた。



自分を憎むように向けられる視線。
かつての友人を思い起こさせる、強い光を放つ、鋭い目。
だが、その大きな瞳は涙でキラキラと光って美しい程だった。
神岡は、眩しいものを見るように夏樹を見詰めると、目を細めた。
だが、気持ちを切り替えるように一度だけ目を閉じると。
次の瞬間には、その目の前で怒りを露わにしている少年に、憐れむような瞳を向けて言った。

「残念だが…。ここまで話してしまった以上は、君も生かしてはおけないな。データの在処を吐いて貰った後で、君も家族の後を追わせてあげよう」

そうして、夏樹の横にいる男達に目と顎で合図を送った。
すると男達は、嫌がる夏樹を引き摺って部屋の外へと連れ出そうとし始めた。

「来いっ!」

「イヤだっ!離せっ!!まだ、話は終わってないっ!!」

抵抗を見せて暴れる夏樹に「くそっ!言うことを聞けっ!」一人の男が手を上げ、力尽くで黙らせようとした、その時だった。



「うっ」
「ぐあっ!」

扉の向こうで男の呻き声と、何かがぶつかるような大きな物音がしたかと思うと。

バーーーーンッ!!

目の前の扉が、勢いよく開かれた。
その扉の入口の中央には、若い長身のいかつい体格の男が立ち塞がっていた。
「…誰だっ?!何者だっ?!」
「何だァ?テメェは…」
神岡をはじめ、その部屋にいた男達全てが突然の乱入者に動揺を隠せないでいる。

(…誰…?)

夏樹も同様に、思わぬ展開について行けず、驚きの表情を浮かべて固まっていたが、その男の後ろに見知った顔を見つけて表情を和らげた。
「…雅耶っ!」

「警察だっ!話しは全て記録させて貰った。神岡勝(かみおか すぐる)。八年前の殺人容疑、そして毒物及び劇物取締法違反。誘拐容疑で逮捕する。網代組の組員の奴等も共犯容疑だっ」
男の野太い声が広い部屋中に響き渡った。