ツインクロス

ずっと、忘れられずにいた、夢にまで見た夏樹が生きていてくれた事実は、素直に嬉しかった。
だが、アイツを苦しめている元凶が自分の父親だと知ってしまった以上は、自分の立ち位置からしてとても複雑な気持ちだった。
現に自分は、自らが仕組んだことではなかったとはいえ、結果的に夏樹を罠にはめた形になってしまったのだから。

「………」

適当に廊下を進んで行くと、広い社内ラウンジへと差し掛かった。
ゆったりした空間のその場所には、広く大きな窓が作られており、現在は目を奪われるような煌びやかな夜景が目下に広がっていた。
力は、その光に吸い寄せられるように、ゆっくり窓辺へと足を運んだ。

(アイツ…無事かな…)

あの場から夏樹を連れ去ったのは、兄の冬樹…ということなのだろうか…?
勿論、他にも仲間がいたのかも知れないが。
薬で身動きの取れない夏樹をあの場から連れ去るには、最低限車が必要だろうから。

だが、きっと…まだ終わりじゃない。

そんな漠然とした嫌な予感が、力の内には存在していた。




「すっかり長居しちゃったな…」

久賀家を後にして夜空を見上げながら夏樹が言った。
時刻は既に夜の10時を過ぎており、空には幾多の星が瞬いている。

「今日は試合で疲れてるだろうに、ごめんね…」
気遣うように謝ってくる相変わらずの夏樹に、雅耶は空を見上げていた視線を夏樹へと戻しながら苦笑した。
「却下、だよ。すぐ謝るなって」
「あ…うん。『ありがとう』…だよな」
夏樹は肩をすくめると、二人で顔を見合わせて笑った。

「でも、突然お邪魔したのに夕飯までご馳走になっちゃって、本当に申し訳ない気がしてさ…」
「いいんだよ。ウチは、普段から家族揃ったって三人しかいないんだし…。いつもの食事風景なんて、会話も少なくてホントに寂しいもんなんだぞー?今日は、お前がいてくれて賑やかで良かったんじゃないかな」
そう言って「だから、いつでも大歓迎」…と雅耶は笑った。
その笑顔につられるように、夏樹も微笑みを浮かべる。
「雅耶の家って変わらないよね。おじさんも、おばさんもさ…」
「…そうかな?」
「うん。全然変わってないよ。昔のままで…すごく温かい…」
夏樹は、懐かしむように遠くを眺めた。