(雅耶は危ない奴なんかじゃない…)

浮かんだ反論は言葉には出て来なかったが、雅耶が言いたかったことは理解出来たので、夏樹は素直に頷いた。
「ま、何だかんだ偉そうなこと言っててもさ、俺の場合は殆どヤキモチ…みたいなものなんだけどさ」
雅耶は、ため息まじりに笑ってそう言うと、夏樹の頭の上に大きな手をポンッ…と乗せてきた。
「…やき…もち?」
「そう。学校でもお前は何かと目立つからか絡まれやすいし、俺としては、いつでも気が気じゃないんだけど…。力に対しては特に複雑なモノがあるのは確かかな…」
「…力、に…?」
夏樹は不思議そうな表情を浮かべた。
「あいつの夏樹に対する執着心って、結構凄いだろ?お前が夏樹だとは流石に気付いていないみたいだけど、それでも『冬樹』への入れ込みも相当なモノだと思うぜ」
「そう…かな…」

(確かに、よく絡んでくるとは思うけど…)

「無意識に『冬樹』のお前に何かを感じてるのかも知れない。俺が気付いたのと同じようにさ…。こんな状態で、もしもお前の正体がアイツにばれたらと思うと、本当に気が気じゃないよ。過去のことは置いといても、絶対負けられないって思う」
「…雅耶…」
「それが俺のヤキモチ。お前が力と一緒にいると落ち着かないんだ。実際、例の件での要注意人物だと思っていたのもあるけど、本当は単に面白くないだけだよ。お前をアイツの側に、行かせたくない…」

再び大人びた真剣な顔を見せる雅耶に。
最初は、大きく瞳を見開いて聞いていた夏樹だったが、ふっ…と微笑みを浮かべた。

「オレが一緒に居たいって…、傍に居たいって思うのは、雅耶だけだよ」

「…夏樹…」
雅耶は、驚いたように目を見張った。

「オレ…自分が夏樹だってこと、何度かお前に言おうとしたことがあるんだ。でも…言えなかった。今までずっと騙していたことを責められるのが怖くて…。そのことで、雅耶に軽蔑されると思うと怖くて言えなかった。お前に…嫌われたくなかったんだ…」
「そんなことで嫌いになる訳ないだろ?」
「ん…。でも、オレ…入学当時も結構最低な態度だったし…。本当はずっと、雅耶とも距離を置いておくつもりでいたんだ。雅耶に限らず誰にも近付くつもりはなかった。最初から嫌われていれば、悩んだり傷ついたりしないで済むって思ってたから…」
「でも、心開いてくれたろ?」
「…それは雅耶のお陰だよ。雅耶がいたから、今のオレがいるんだ…」