「いいのか…?退けなくて。いつもやるみたいに殴って俺をのしてみろよ」
わざと近くで雅耶が囁いている。
「ダメだよ…出来ないよ…」
夏樹は緩く首を横に振った。
「オレには…。雅耶のこと殴るなんて出来ない…」
頭をふるふると横に振りながら『殴れない』と訴える夏樹に、雅耶は一瞬驚いたように目を見張った。だが、
「…甘いよ、夏樹…。あんまり甘やかすと、本当に奪ってしまうかもよ?」
先程よりは、幾分か柔らかい表情で瞳を合わせてくる。
夏樹は真っ直ぐに瞳を逸らさず、雅耶を見つめ返すと言った。
「…いいよ。雅耶なら…」
本気、だった。
雅耶のことが好きだから、それでも良いと。
流石に緊張していたので、いつもの癖で声が若干低くなってしまったけれど。
だが…。
何故か雅耶は目の前で、脱力していた。
掴んでいた片方の手を離すと、その手で自分の顔を覆って俯いてしまっている。
「…雅耶…?」
その思わぬ反応に、夏樹が不安げに名前を呼ぶと。
雅耶は片手で口元を覆いながらも、ゆっくりと顔を上げた。
「お前…ホント、そういうの…反則…」
そう呟いた雅耶の顔は真っ赤に染まっていた。
さっきまでの大人びた雅耶とは全然違う、いつもの雅耶だった。
「だって…本当にそう、思ったんだ…」
雅耶が普段通りに戻ったことで安心した気持ちと、極度の緊張感。そして、それ以外の様々な感情が入り混じって、思わず泣きそうになった。
鼻の奥がツン…として、涙の膜で視界がにじんでゆく。
今日は泣いてばかりで、すっかり涙腺が緩んでしまっているみたいだった。
そんな夏樹の様子に気付いた雅耶は、穏やかな微笑みを浮かべると。
「…嘘だよ。そんなことしないよ。無理強いしたって、意味がないもんな」
そう言うと、とうとう溢れて零れ落ちてきた夏樹の涙をそっ…と、親指で拭った。
「驚かして、ゴメンな…。…怖かったか…?」
夏樹は、首をふるふると横に振ることしか出来なかった。
そんな夏樹の目線に合わせるように、雅耶は少し屈むと。
「でも、今日みたいに身体が痺れて動けなかったり、眠ってしまっていたら、そういう卑怯な真似をする奴が傍に居たって、お前は抵抗することすら出来ないんだよ。そういう危険性もあるってことをお前はちゃんと覚えておかないと駄目だよ。…実際、俺みたいにアブナイ奴も近くにいることだし、さ…」
そう、おどけるように言うと、優しく笑った。
わざと近くで雅耶が囁いている。
「ダメだよ…出来ないよ…」
夏樹は緩く首を横に振った。
「オレには…。雅耶のこと殴るなんて出来ない…」
頭をふるふると横に振りながら『殴れない』と訴える夏樹に、雅耶は一瞬驚いたように目を見張った。だが、
「…甘いよ、夏樹…。あんまり甘やかすと、本当に奪ってしまうかもよ?」
先程よりは、幾分か柔らかい表情で瞳を合わせてくる。
夏樹は真っ直ぐに瞳を逸らさず、雅耶を見つめ返すと言った。
「…いいよ。雅耶なら…」
本気、だった。
雅耶のことが好きだから、それでも良いと。
流石に緊張していたので、いつもの癖で声が若干低くなってしまったけれど。
だが…。
何故か雅耶は目の前で、脱力していた。
掴んでいた片方の手を離すと、その手で自分の顔を覆って俯いてしまっている。
「…雅耶…?」
その思わぬ反応に、夏樹が不安げに名前を呼ぶと。
雅耶は片手で口元を覆いながらも、ゆっくりと顔を上げた。
「お前…ホント、そういうの…反則…」
そう呟いた雅耶の顔は真っ赤に染まっていた。
さっきまでの大人びた雅耶とは全然違う、いつもの雅耶だった。
「だって…本当にそう、思ったんだ…」
雅耶が普段通りに戻ったことで安心した気持ちと、極度の緊張感。そして、それ以外の様々な感情が入り混じって、思わず泣きそうになった。
鼻の奥がツン…として、涙の膜で視界がにじんでゆく。
今日は泣いてばかりで、すっかり涙腺が緩んでしまっているみたいだった。
そんな夏樹の様子に気付いた雅耶は、穏やかな微笑みを浮かべると。
「…嘘だよ。そんなことしないよ。無理強いしたって、意味がないもんな」
そう言うと、とうとう溢れて零れ落ちてきた夏樹の涙をそっ…と、親指で拭った。
「驚かして、ゴメンな…。…怖かったか…?」
夏樹は、首をふるふると横に振ることしか出来なかった。
そんな夏樹の目線に合わせるように、雅耶は少し屈むと。
「でも、今日みたいに身体が痺れて動けなかったり、眠ってしまっていたら、そういう卑怯な真似をする奴が傍に居たって、お前は抵抗することすら出来ないんだよ。そういう危険性もあるってことをお前はちゃんと覚えておかないと駄目だよ。…実際、俺みたいにアブナイ奴も近くにいることだし、さ…」
そう、おどけるように言うと、優しく笑った。



