「冬樹、どうだ?…何か収穫はあったか?」

軽くノックの音がした後、力が扉を開けて入って来た。手には、先程はなかった大きめの手提げ袋を抱えている。
冬樹は手にしていたファイルを元の棚へと戻すと、力を振り返った。
「ああ…。日誌は一通り読ませて貰った。でも、やっぱり出来上がった薬については何も書かれていないみたいだ…」
「…そうか。ところで、喉渇いたんじゃないか?少し休憩しろよ」
そう言うと、力は手提げの中からペットボトルを取り出した。
その内の一つを手渡される。
よく冷えた、ごく普通のペットボトルのお茶だ。

「…ありがと…」

冬樹は受け取りながら、さり気なくペットボトルのキャップ部分をチェックする。
(フタは…開栓されてない…。なら、大丈夫かな…)
力を疑って掛かるのは心苦しいが、念の為…だ。
これが、直に入れてくれた飲み物等だったら口にしない所だった。
目の前で自分の分のお茶を開けて飲んでいる力を見て、冬樹も小さく「…いただきます」というと、その栓をひねって開けた。
遠慮がちにペットボトルに口を付ける冬樹を、力は静かに眺めていたが、冬樹が一息ついた所で思い立ったように言った。
「なぁ冬樹、日誌を見たのなら気付いたと思うんだが、ここにある資料って結構古いものばかりじゃなかったか?」
「ああ…確かにそうだった、けど…」

そう冬樹が答えている間に、力は抱えて来た袋の中から何かを取り出そうとしていた。
「実は、それ以降のデータは全てパソコン上に保存されていたらしいんだ」
そう言って、袋から出て来たのは小さめのノートパソコンだった。

「………」

嫌な予感が頭を過ぎる。
思わず固まっている冬樹を他所に、力はデスク上にパソコン以外のケーブル等の機材も袋の中から次々と取り出して並べていく。
そして、最後に力が袋から取り出した一つの機械を見て、冬樹は瞳を大きく見開いた。

「それ…って…」

力が手にしていたのは、少し型は違うが最近目にした、見覚えのある機械だった。
それを凝視して硬直している冬樹に、力は平然と答える。
「これが何だか分かるのか?お前、結構物知りなんだな」
そう言って、目の前のパソコンに取り付けた。

「これは、静脈認証装置。パソコンデータのセキュリティ解除に必要なんだ」
力は意味ありげに冬樹を振り返るのだった。