ツインクロス

そのまた翌日。

土曜日の朝。
雅耶は朝食後、いつも通り新聞を広げ、目ぼしい記事だけをざっと読み流していた。
今朝の朝刊のトップ記事は、ある大物政治家の訃報が大きく報じられている。
現在の国会において、なくてはならない存在になりつつあったその未だ若い政治家の突然の訃報に、政界をはじめ多くの業界から悲しみのコメントが発表されたと書かれていた。
(死因は心疾患…。心臓発作、か…)
記事には『突然死』という文字が大きく書かれている。
(何か、最近やたらと耳にする気がするな。いわゆる生活習慣病ってヤツだよな…)
そんなことを考えながらも、特別興味もなく他の記事へとページを捲った。
そんな時だった。
「雅耶ー?あんた、そんな呑気に新聞なんか読んでて大丈夫なのっ?今日部活の試合なんでしょう?時間ちゃんと見てるのっ?」
母親が口煩くそんなことを聞いて来る。
「大丈夫だよっ。もうすぐ準備しようとしてた所だよ」
実際に出掛ける自分よりも落ち着かないでいる母に、雅耶は溜め息を吐くと渋々席を立った。



時を同じくして、その隣の家では。
薄暗い部屋の中、床に直接座り込み黙々と父の書物に目を走らせている冬樹がいた。

手にしていた書類の最後のページまでを読み終えると、冬樹はパタリ…とファイルを閉じた。
「ふぅ…」
(…周囲が暗いからか、目がシパシパする)
冬樹は目を閉じると、瞼の上から両目をそっと押さえる。
その後、手元に置いてある小さなLEDライトで腕時計を照らした。
時刻は7時50分を過ぎたところだった。
(もう、8時か…。時間経つの早いな…)
胡坐(あぐら)をかいたまま大きく伸びをする。

冬樹は今朝早く未だ陽が昇る前に、この野崎の家を訪れていた。
今日は土曜日で学校は休み。そして、バイトも一日休みを貰っていた為、昨日の内から今日は此処へ来て父の書類をもう一度よく調べてみようと思っていたのだ。
だが、昨夜からずっとそのことが気になっていたからか、眠っては一時間程で目覚めるというのを繰り返し、ろくに眠れぬ始末。
あまりにも落ち着かないので、日の出を待たずにアパートを出て来てしまったのだった。

(でも、結局…大したことは分からなかったな…)
隠し部屋にあるファイルやノートは一通り目を通した。
だが、新薬の開発や研究に関するものは何も記載されていなかった。
(…もしかしたら、例のデータと一緒に此処から既に持ち出された後なのかも知れないな)

この扉を開けた…父の秘密を知る『人物』に。