ツインクロス

「…なっ?酷い話だろうっ?」

そう過去の父親との出来事を事細かに語る力に。
「…確かに、夏樹とは縁がなかったんだろうけどな…」
横を向いて、冬樹がぼそり…と小さく呟いた。
入れ込んで話している力には聞こえなかったみたいだが、隣にいる雅耶には、しっかり聞こえたようで。
「こらこら…」
思わず苦笑いを浮かべている。

「でもまぁ、確かにその話が本当なら、友人の家族が事故で亡くなったばかりなのに、そんなことを言ってるっていうのは、ちょっと不謹慎だし、どこか意味深だよな…」
雅耶が顎に手を当てて考え込む。
「…だろ?」
力は小さくため息を吐くと、腕を組んで壁に寄り掛かった。
「………」
冬樹は暫く無言で俯いていたが、ふと気になって腕時計に目をやると、そろそろ昼休みが終わる時刻に近付いていた。

(…もうすぐ予鈴が鳴る。あと、聞いておきたいこと、は…)

少しだけ慌てた様子で冬樹は言った。
「事故に関しては、もう八年も前のことだし確認しようもないだろうけど…。とりあえず、その作ろうとしてた薬が何の薬だったのかだけでも調べることって出来ないかな?」
「うーん…。出来上がった薬の元になるような大切なデータはないだろうけど、研究途中の日誌とかなら別荘に山程あるぞ。でも、それを見たからと言って、狙われてるデータが何なのかまでは分からないかもな…」
力が肩をすくめて言った。
「…そう、だよな…」

その時、授業開始五分前の予鈴が校内に鳴り響き始めた。
三人は顔を見合わせると、慌てて足早に屋上を後にする。ここから一年の教室へは結構な距離があるのだ。


黙々と足を運びながら、冬樹は一人思いをめぐらせていた。
父が何を作りたくて、実際に何を作ったのか。
どうしても、それが気になって仕方がなかった。
(もしも、作り上げた新薬が『罪』だと言うのなら、父さんはどんな気持ちでそれを作ったんだろう…)
狙っている者達の理由云々(うんぬん)よりも、何よりも父の気持ちが知りたい。そう思う気持ちが強くなっていた。
(もう一度、父さんの書斎を調べてみようかな。何か糸口が見つかるかも知れない…)

冬樹は、歩きながら廊下の窓から覗く空を見上げた。
そこには、今の自分の心中と同様にどんよりと重く、分厚い雲が広がっていた。