窓から朝日が差し込んでくる。

その陽の光の眩しさと照射される熱に、思わず我に返った。
(もう…朝、か…)
結局、朝までこの部屋で過ごしてしまった。
冬樹は椅子から立ち上がると、気持ちを切り替えるように大きく伸びをした。
少し寝不足気味ではあるが、思いのほか気分はスッキリとしている。

泣くだけ泣いた後、ずっと昨夜の出来事を考えていた。
夢と現実の境目。
実際にその声を聞いたという確信は自分の中にあるのに、自分の意志で身体を動かせなかったことから、眠っていたという可能性も否めないでいた。
(でも、もう良いんだ…)
冬樹は、自分の確信の方を信じることにした。

『あと…もう少しだけ…辛抱して待ってて欲しい…』

その言葉の意味は解らない。
でも、兄に会えるまで自分はずっと『冬樹』でいる。そのことに関しては今迄と何も変わりはないのだ。
なら、プラスに考えて待つのも良い。…そう思った。
あれが単なる夢、幻で…永遠に待ち続けることになったとしても…。

冬樹は、もう一度だけ大きく伸びをすると、部屋の戸締りをきちんとして、その家を出ることにした。
まだ、陽が昇り始めたばかりの早い時刻。
小鳥のさえずりは聞こえるが、街の住人達は未だ眠りの中なのか、周囲は静まり返っている。
通りから雅耶の部屋を見上げるが、窓は閉まりカーテンが引いてあった。
(…雅耶もまだ寝てるんだろうな…)
そう言えば、良く考えてみたら昨夜雅耶と別れてから何も口にしていない。
(流石にお腹空いたな…。コンビニでも寄って朝ごはん調達して帰ろ…)

冬樹は朝日を背にすると、一人ゆっくりと歩き出した。




そうして、日々は何事もなく過ぎて行き、長くもあり短くもあった夏休みがあと二日で終わりを迎えるという頃。
その日もバイトに入り、普段と変わらぬ日常を過ごしていた冬樹のもとに、思わぬニュースが舞い込んできた。
それは、冬樹の誘拐事件に関わっていた、拘留中だった製薬会社の社員の男が、取り調べの最中に突然発作を起こし、病院に運ばれたがそのまま亡くなったとのショッキングな知らせだった。

大倉と同様、犯人の突然の死に。
冬樹を筆頭に、事件の全容を知っている直純、そして雅耶も大きな動揺を隠せないでいた。