「もしかしたら…メールしてきた人物は、俺のことを知ってたんじゃないのかな?」
「えっ?」
一瞬、ドキッとした。
疑問を口にしながらも、自分でもどこかでそう思っていたのかも知れなかった。
「その、冬樹を助けてくれた人達って、何か事情を知ってるみたいだし…。だったら、冬樹のこともある程度知ってるハズだと思うんだ。俺と冬樹が幼馴染なのは調べればすぐ分かることだし、一緒にいるとこを見たのかも知れないしさ」
「そう…だな…」
(そう、考えるのが自然だよな…)
「それで、昨日…俺から、あれだけ何度も着信が入ってるのを見れば、冬樹と連絡を取ろうと必死になってるのなんて一目瞭然だろ?だから俺にメール寄こしてきたんじゃないか?」
「うん…。そうかも…」

雅耶の言ってることはもっともだった。
オレのことを調べていれば、狭い交友関係だ。きっとすぐに雅耶に辿り着くだろう。
(でも…そう思いつつも…。オレは、どこかで違う可能性を考えている…)

有り得ない可能性に期待している。


「…冬樹?…どうした?」
突然、足を止めてしまった冬樹を振り返って雅耶が声を掛ける。
その声によって初めて、冬樹は自分が足を止めていたことに気が付いた。
「あ…ううん、何でもない…」
慌てて再び歩き出す冬樹の様子を雅耶がじっ…と見詰めてくる。

(お前の『何でもない』は、何でもなくないんだよ…)


目を見ていたら、雅耶の言おうとしていることが解ってしまった。
冬樹は、それに苦笑すると、少しだけ本音を口にした。
「…ちょっとね。その人のことが気になってさ…」
「『その人』って…。助けてくれた若い男のこと?」
「…ああ…」

『怖い思いをしたね…。でも、もう大丈夫だよ』
ふわり…と優しく頭を撫でられた、あの感覚…。

あの瞬間。
オレは、過去の懐かしい『温かな手』を思い起こしていたんだ。
よく、そうやって夏樹をなぐさめてくれていた優しい手を…。
(だけど…それは、本当にありえないから…)

否定しつつ、否定したくない。
本当は、少しでも可能性があるなら信じたい。
だけど、そんな自分に都合のいい解釈を簡単には認められなくて。

それでも…。
頭では解っていても、あの時感じた感覚がどうしても忘れられないでいる。
どこかで、ずっと引っ掛かっている。

(ふゆちゃん…)

あれが、あなたの手である筈が無いのに…。