周囲を警戒しながら、ゆっくりと歩いてみる。

その倉庫は、然程大きなものではなかった。何処かの会社が利用している様な倉庫ではあるが、出入り出来るのは、正面の大きなシャッター扉とその横の鉄製の通用口の扉のみ。明かり取りの窓はあるが、高い場所で登ったり出来る様な場所ではなかった。

(鞄もない…か。携帯があればな…)

冬服ならブレザーのポケットに入れているのだが、夏服はYシャツにニットベスト。Yシャツの胸ポケット部分が片方膨らむのはイヤだし格好悪い。だが、スラックスのポケットだと邪魔なのもあり、冬樹は煩わしさから鞄に携帯を入れていたのだ。
(まあ、どのみち…何処に隠し持ってても携帯は取られてただろうけど…)
そんなことを考えながら、冬樹は正面にある扉へと近付いて行った。
後ろ手にノブへと手を掛けてはみるが、やはり動きはしなかった。

(どうしよう、かな…)

シャッター扉を開けることは出来なくても、体当たりでもすれば、大きな音を立てて助けを呼ぶことは出来る。だが、此処がどういう場所なのか分からない以上、逆に相手に目が覚めたことを気付かせてしまうだけなのではないか?とも思う。
(もともと、通りすがりの人がいるような場所じゃないんだったら、単なる自殺行為だよな…。でも、だからと言って、いつまでもこんな所に大人しく閉じ込められているのも…)
冬樹は倉庫内を振り返ると、何か良い策はないかと考える。

未だ外は明るい。
そんなに何時間も経過してはいないのかも知れない。

(そう言えば…。合コン…どうだったんだろ?)

ふと、思い出す。
長瀬は、気の合う子を見つけられたのかな…?
雅耶は…彼女がいるからな…。一緒に楽しんでいるのかな?

楽しそうに盛り上がっている皆を想像して。
冬樹は小さく息を吐くと、遠い目をした。

(…なのに、何でオレは…こんなことになってんだろ…)

今の自分の状況に、思わず泣けてしまいそうだ。
あの男が知りたい情報なんて、自分は何一つ持ってはいないのに。
こんな所へ連れて来られてしまって、いったいどうすればいいというのだろうか。

本来なら、脱出をする為の策を考えなくてはならないのに。
こんな所から、早く抜け出さなくてはならないと思うのに。
どうしても考える気になれなくて、冬樹は扉から少し離れた場所に座り込むと、薄暗い天井を見上げた。

未だ薬が効いているのかも知れなかった。