何故だか、やたらと後方を気にしている冬樹の様子に。
「あんなに急いで走ったりして、いったいどうしたんだよ?…何かあったのか?」
雅耶も、その視線の先を訝し気に眺めながら言った。
「いや…、急いで帰りたかっただけ…だよ。…早く帰って課題を終わらせたくて…」
僅かに緊張を解いた冬樹が、未だに息を切らしながらぽつりぽつり…と答える。
「………」

(冬樹…。何か、隠してる…?)

先程までの冬樹の警戒感は、只事ではない感じだった。

真偽を見極めようとするかのような、雅耶の真っ直ぐな視線に、冬樹はバツの悪そうな顔をすると、誤魔化すように逆に話を振ってきた。
「雅耶こそ…。こんな所で、いったい何してるんだよ?」
軽く拗ねたように見上げてくる冬樹に。
「あ…ああ…。これだよ」
そう言うと、雅耶は手に持っていた小さな紙袋を冬樹の目の前に差し出した。

「…これ…?」
「お土産」
「…おみやげ…?」

不思議そうに首を傾げている冬樹に、雅耶はクスッ…と笑うと強引にその手に渡した。
「今日、姉貴が久し振りに帰って来てさ、お土産沢山持ってきたんだよ。お前が今同じ学校にいるって話が母さんから姉貴の方に行ってたみたいでさ、お前の分も買ってきてくれたんだって」
「お…姉さん…?」


雅耶の姉と聞いて、冬樹は昔の記憶を呼び出してみるがいまいちハッキリとその姿は浮かばなかった。
確か雅耶とは随分歳が離れていて、自分達が小学生の頃は既に大人の様だったイメージがある。今はもう結婚して何処か遠くに住んでいると、以前少し話に聞いた覚えがあった。
「明日学校で渡せば良いかなとも思ったんだけど、荷物にもなるだろうし。母さん達が、家が近いなら届けてやれって…」
そう言って、雅耶は苦笑した。
「そっ…か…。テスト前なのに悪かったな…。わざわざありがとな…」
「気にするなよ。ずっと机座ってたって、ずっと集中して勉強出来る訳じゃないしさ。お前がバイト終わって帰ってくる時間みて、気分転換に散歩がてら出て来ただけだから。お前が気にすることじゃないだろ?」
そう優しく笑う雅耶に。
もう一度「サンキュ…」と礼を言うと、冬樹も笑顔を見せた。


そんな二人の様子を、物陰からずっと伺っていた人影は、「チッ」…と小さく舌打ちをすると、その場から立ち去って行った。
その後方には、また別の監視の目があったのだが、そのことに気付く者はなかった。