「えっ?…行方不明?その、冬樹チャンの妹が?」

食堂からの帰り道、雅耶は長瀬にだけ事の真相を伝えた。
「ああ…。妹だけでなく、両親も…な。だから、あいつは今年の三月までは親戚の家に引き取られていたんだ。それで、高校に入学するのを機に、こっちでひとり暮らしを始めたらしい」
「ナルホド…。それで『苦学生』って言ってたんだ…」
長瀬は珍しく真面目に話を聞いていた。
「見かけによらず苦労してるんだなぁ、冬樹チャン…」
「うん。だからさっきのは…あいつに、辛いことを思い出させちゃたのかも知れない…」
「そっか…。双子の繋がりって、普通の兄弟より強そうだもんなぁ…」
突然席を立ち、先に出て行ってしまった冬樹を思い出して、二人して神妙な面持ちで歩いていた。
「あっでも、待てよ。双子ってことは、もしかして冬樹チャンとその子…似てたりするのっ?あ…でも、男と女の双子だと二卵性になるから、そうでもないのか?」
「いや…似てるよ。昔はそっくりで見分けも付かない程だったよ」
そう自分で言葉にしたところで、雅耶はハッ…とした。

(もしかしたら俺は、冬樹と夏樹を重ねて見ていたんだろうか?だから、こんなにも冬樹のことが気になって仕方ないのか…?)


冬樹を放っておけなくて、もっと頼って欲しいと思う。
同じ男だけど、守りたい…と思う。
そして、いつだって笑っていて欲しくて…。

そこまで考えて、その思考をすぐさま打ち消した。

恋愛どうこうの話じゃない。
自分にとって冬樹は大切な幼馴染みであり、親友なのだから。
二人共が、兄弟のように育った、自分にとって大事な存在であることに違いないのだ。
ただ、夏樹は自分にとって一番身近な女の子であり、『恋』の対象に成り得ただけ…ということなのだろう。
今になって考えてみれば、冬樹と夏樹を想う自分の気持ちに、あまり差はないような気がした。


「でもさぁ、冬樹チャンと似てるってことは、きっとその子も成長してたら美人さんなんだろうねぇ。見てみたいなァ、雅耶が一途になるような女の子がどんな子なのかってさ」
そんな長瀬の言葉に、雅耶が元気なく笑った。
その切なげな横顔を眺めていた長瀬は、突然、雅耶の肩をガッチリと掴むと口を開いた。
「お前も辛い恋をしてるんだな。でも…思い出も大切だけど、新しい恋を見つけるのもアリだと思うぞっ。まだ若いんだし…なっ」
「…長瀬…」
そう言うと。

「だから合コン!やろうぜっ♪」
と、にこやかな笑顔を向けられ、雅耶はムカつく思いのままに、長瀬の鳩尾に軽くパンチを食らわせた。