藍海と付き合い始めてから1ヶ月が経とうとしていた。
今日は毎年恒例の球技大会。数少ない学年全員が集まれるチャンス。藍海の体操服姿が見られると思うと、なんでもない。
藍海は運動神経が悪いから少し心配でもあった。
男女共にドッヂボール。トーナメント表をみて、俺の試合と藍海の試合が重なっていないことを確認する。といっても俺の試合が終わったあとすぐ藍海の試合だからわりと急がないといけない。

俺の試合が始まる。藍海にいいところを見せなきゃと必死に当てまくった。当てるたびに藍海が嬉しそうに跳ね上がる。
試合終了5分前になると藍海は自分の試合場所に行かなければいけないため、友達に手を引っ張られ、嫌々後ずさっていった。
後で見に行ってやるから。心の中で呟いて、また一人、相手を潰した。

試合が終わり、急いで藍海のコートに行くとすでに試合は始まっていた。
怯えながらコートの角にいる藍海。今すぐ盾になりに行きたい。頑張れ藍海。
そして俺はあることに気づく。外野ボールはすべて同じ奴に渡されている。誰に渡されているか気付いてハッとした。佐那だ。
やたらと藍海の方へボールが行くのは、「弱い奴から潰す」作戦なんだと思っていた。違う。佐那は藍海を潰そうとしていた。殺意がこもっているかのようなボール。ボールの動きを計算しているのかたまたまなのかわからないが、いつもギリギリのところで避けていた。
試合も後半に入り、藍海の体力に限界が来ている。喘息持ちの藍海は無理をさせちゃいけない。大人しくあたって外野で休めばいいのに。負けず嫌いには通用しなかった。
そしてもうひとつ気付いたこと。佐那は藍海の「頭」を狙っている。本気で危ない。審判に抗議をしようとした瞬間。
内野がスピーディーにボールを佐那に渡す。藍海はボールの動きについていけていない。
「藍海!後ろ!危ない!!」
そう叫んだ時には佐那は藍海の頭をめがけて思い切り投げた。
藍海の後頭部に思い切りボールがあたり、藍海がふらつく。
そのまま倒れた藍海を受け止め、急いで保健室まで連れて行った。

「君は授業戻りな。」
ずっと藍海の寝ている横に座ってた俺に保健室の先生が声をかける。
「嫌だ。俺の試合終わったし。」
藍海のそばに居たかった。本当だったらお互いの試合は終わってふたりでのんびりしているはずだったのに。あいつに邪魔された。
「先生も心配するでしょ。」
「俺は藍海のことが心配なの!ひとりにするわけにはいかない。」
「あたしがいるからひとりにはならないから。」
「先生じゃ任せらんねえよ!」
「どういう意味よそれ。」
先生がムッとする。藍海がやったら絶対可愛いけど、おばさんがやっても可愛くない。藍海の寝顔は可愛いけど、少し苦しそうに見えた。
「先生俺、藍海のこと守れなかった。」
「んー、試合はしょうがないんじゃないの?」
「俺の元カノが、わざと頭狙って当てたんだよ。俺、藍海のこと傷つけるやつから守るって言ったのに、守れなかった。」
いつの間にか先生は、俺の隣に座って黙って聞いてくれていた。
「相手があいつってわかったとき、たぶん藍海怖かったと思う。それを必死に逃げて頑張ってた。気持ち的に押し潰れそうだったはずなのに。精神的にも物理的にも藍海のこと傷つけた。」
倒れた時に床と擦れてできた膝と肘の傷を見る。
「抱っこした時、すっげぇ軽かった。こんな体で俺のこと守ろうとしてくれたんだよ。俺が守れなくてどうすんだよ。」
涙が出てくる。本当に情けない。
「藍海は幸せだなー。最近家でもルンルンだったから彼氏でもできたんだろーとか思ってたけど、こんなに好かれてるとはねぇ。青春したーい!」
おばさんの言ってることが理解できない。
「どうも!金森藍海の姉でーす!ここの保健室の先生やってまーす。どうかこれからも藍海のことよろしく頼みます。それでは〜。」
ヒラヒラ手を振ってどこかに行く先生。
実の姉にあんな恥ずかしいことを言ってしまった。恥ずかしくてここから飛び降りたい。