亜羅汰side


手を振り解かれた。

呆然としていると、後ろからクスクスと笑っている声がした。


「何笑ってんだ、優。」

「だって、亜羅汰が女の子に手を振り払われてるとこなんて初めてみたからさ。」


そういって、クスクスと笑っているこいつは、俺の親友だったりする。

おかしな事に、転校する日も学校も何故か一緒になってしまった。



「あ、あの。」


そこで、一人の女がおずおずと話しかけてきた。


「あぁ、ごめんね夏芽ちゃん。こいつは僕の友達の亜羅汰って言うんだ。」


そう言って、その女に俺の名前を教えた。

大概の女は俺を見ると舐めまわすように見る。

でも、この女は違った。


「ど、どうも。あの、さっき蛍になにしたんですか?」


そういって、警戒心を向けてきた。

さっきの蛍も最初俺を睨みつけてきた。

優も少しだけ驚いた顔をしてから、微笑んだ。

俺は、あいつが呼んでいた夏芽という女を一瞥して


「帰る。」


「ちょっと!蛍になんかしたらただじゃ置かないんだから!」


後ろから叫び声が聞こえたけど、聞こえないふりをした。

さっき、蛍も同じことを教室で言っていた。

あのとき、俺はあいつに強さを感じた。

あの小さな身体でどんな言葉も跳ね除けた凛とした背中をみて、初めて女に興味が湧いた。


「綺麗事…か。」


後ろから優が女を宥める声がしてその声がどんどん遠ざかっていくのを聞いて俺は小さくつぶやいた。