『ちょ、ちょっと待って!』


「あ?なんだよ。」


人通りがない場所まで来て、繋いでいた手が離れたのを見て、私は口を開いた。


『なんだよはこっちの台詞!
さっきのなんなの?!馬鹿じゃないの?!』


ありえない。

しかも、あんなに沢山の人の前で。

さっきの様子を思い出して、頬が沸騰したみたいに熱くなった。


「は?何赤くなってんの?
告白ぐらいされたことあんだろ?」


『……。』


「…待てよ。嘘だろ…。」


『初めてよ!なんか文句あんの?!』


ここまで来たらもう開き直るしかない。


『告白されたのも!男子と手繋いだのも初めてよ!文句ある?!』


そこまで言って、私は口をつぐんだ。


「まじかよ…。」


鳴海は、呆然と私のことを見つめたかと思うと、急に吹き出した。


『…は?ちょ、ちょっと!なに笑ってんのよ!』


「いや、だって…ククッ、こんなんで顔赤くするやつが、ビッチなんて言われてて…クククッ。」


『そ、それはっ!』


「まぁ、俺はそんなのどうでもいいけどな。噂とか、そんなのそいつと関わってみねぇとほんとかわかんねぇしな。」


『…っ』


なんだそれは。

まるで、私と関わりたいみたいに言わないでよ。

そんな、

そんな、優しい顔で笑わないでよ。

少しだけ、ほんとに少しだけ期待する自分が心のどこかにいる。

この人なら、鳴海なら、この状況を少しは変えてくれるかもしれないなんて。

私は自傷的な笑みを浮かべた。


『そんなの、ただの綺麗事だよ。』


私はボソリと呟いた。


その声は鳴海に聞こえていたようで、彼は少しだけ顔をしかめた。


「なんでそうい「蛍ーー!!」


彼が何かを言いかけたとき、廊下の向こうから私を呼ぶ声が聞こえた。