私の名前は、村田 蛍(ムラタ ケイ)。

高校2年になって、クラスではとても浮いた存在。

その理由もさっきと同じだった。

友達の彼氏をとった。

らしい。

私は身に覚えがない。

それもまた酷いらしい。

彼氏をとったも何も、私は誰にも告白さえされていない。

まず、恋というものをしたことがない。

恋をすると、さっきのカホ先輩のように人が変わってしまうのか。

恋は怖い。

そんなことを考えていると教室についた。

中に入るとヒソヒソとまたあることない事言い合っている子達がいる。


「先輩の彼氏寝取ったらしいよ!」

「やばくない?しかもあの怖くて有名なカホさんの彼氏でしょ?」

「ほんとにタラシだよね。」


私は聞こえないふりをして席に着く。

まず、カホさんの彼氏がどんな顔をしているのかすら知らない。

それに私は処女だ。

暫くして先生が教室に入ってきてヒソヒソとした声は聞こえなくなった。


「今日は、転校してきた奴がいるんだ。」


先生の言葉にみんながザワザワする。

今は学期の初めというわけでも何でもないので転校してくるには少しおかしい。

まぁ、私には関係のないことだ。

どうせあることない事吹き込まれて私に近づくこともないだろうから。

転校生が教室に入ってくると女子から小さな悲鳴が上がった。

私も一応前を向いてみると、なるほど確かに顔が整っている。

黒い髪に黒い瞳。見ていると怖くなるほど整っている。

先生から自己紹介を促されると


「鳴海 亜羅汰(ナルミ アラタ)。よろしく。」


それだけ言うとあとは黙ってしまった。

基本無口らしい。

女子にはうけるタイプだ。と思う。

私にはわからないけれど。


「じゃあ、席は村田の隣な。」


さっきまで響いていた女子の黄色い声が一瞬なくなり静まった。

そして今度はヒソヒソと話し始める。

それに気づいているのかいないのか先生は話を続ける。


「じゃあ、村田は放課後鳴海に学校案内してやってくれ。」


迷惑な話だ。

教室に入ってきただけで人気者のやつをなぜ嫌われ者の私に押し付けるのか。


『すみません。放課後は用事があるのですが。』


私が手を挙げてはっきりと言うと、


「そうか。じゃあ、放課後暇な奴いるか?」


先生がそういうと、女子のほとんどが手をあげる。


「じゃあ、ジャンケンかなんかで決めろ。」


先生はめんどくさくなったのか、誰かは決めずに生徒たちに委ねた。

女子はきゃあきゃあと騒いでいる。

私の特等席である窓側の一番後ろの席は女子が近くにいないのでうるさくなくていい。

隣で椅子を引く音がしたので横を向くと、隣に鳴海くんが来ていた。

だからといって私には関係ない。

私はすぐに窓の外に顔を向けた。

今日は空が青くて風が気持ちよさそうだ。

そんなことを考えていると隣から声が聞こえた。


「おいチビ。」


私はピクリと反応した。

私は身長が146㌢でそれがコンプレックスだったりする。


『今なんか言った?』


私が睨むと


「お前、なんで俺の学校案内断ったんだよ。」


『めんどくさいから。』


「そのせいで俺が面倒臭いことになったじゃねぇかよ。」


『知らないよ。女子に案内してもらうんだからいいじゃない。』


「それが嫌なんだよ。」


じゃあ、私でも一緒じゃない。

そう思ったが言わないでおいた。

私はまた窓の外を眺めて静かに目を閉じた。