あなたに出逢えてよかった。


暫くすると、夏芽たちと一緒に私を探してくれていたらしい有川くんが夏芽と一緒に帰ってきた。


『有川くん。ごめんね、迷惑かけて。』


私が素直に頭を下げると、彼は静かに微笑み首を横に振った。

後ろからはあからさまな舌打ちが聞こえた気がしたが、気がしただけと一人で納得した。


「そう言えば、図書館に行って寝てたの?起きなかったって事は相当眠り深かったってことだよね?…えっと、珍しいね?」


戸惑ったように夏芽が言った。


『そうなの。珍しくよく寝れたの。』


正直に私も答え、同時に疑問も生まれた。

確かにこんなに眠ったのは久しぶりで、しかも、学校で、今日初めて会ったであろう男までいたというのにだ。


『管理人…?』


小さく小さく、自分でも聞こえるか聞こえないぐらいの声で呟いて、さらに疑問が深まった気がした。

彼は確かに私を見て〝けい〟と言った。

女で〝けい〟という名前は珍しいと自分でも思っている。

寝ぼけていたとしても、髪の長い私を男と間違えることはないはずだ。

勘違いかもしれない。けど、あの声をどこかで知っている気がする。

〝けい〟と呟いた声が、とても優しくて思わず耳を塞ぎたくなった。


「けい?」


遠くで夏芽が呼ぶ声が聞こえた。

手に誰かの手が触れた。

それは誰でもなく夏芽の手で、いつの間にか私は本当に耳を塞いでいたみたいだ。


心配そうに夏芽が私を覗き込んだ。


「ほんとに大丈夫?」


有川くんや、鳴海までもが心配そうにこちらを見ていた。


『大丈夫、大丈夫。』


そう言って微笑むと、まだ心配している様子で夏芽は小さく頷いた。