変わらない日常。

朝起きて、誰もいない家でご飯を食べて、学校へ行く。

教室に入って、自分の席について、皆からの冷たい視線を浴びる。

いつものこと。

いつもの日常。


「村田 蛍(ムラタ ケイ)。ちょっと顔貸しな。」


珍しい。

これはいつもと違う。

久しぶりに名前を呼ばれて少し驚きつつ、名前を呼んだ人の方を向くと学校で有名な派手なグループの中心人物のオンナの先輩だ。

この人になにかしたか自分なりに少し考える。

見当もつかない。

まぁ、それもいつものことだ。

いつも私が知らないうちに私が悪者だ。


「早く来なさいよ。」


化粧を施した真っ黒い目で睨みつけられると迫力がある。

私は席から立って、皆からの冷たい視線の中彼女の背中についていく。

私は今度は何をやってしまったのか。

考えていると、体育館の倉庫についた。

ベタだ。

心の中で一人突っ込んでみる。

中に入ると私を呼びにきた先輩とは別の3人の先輩がいた。

1人は泣いていて化粧は落ち、目がパンダのようになっている。


「あんたさ。自分が何したかわかってる?」


私を呼びにきた先輩が声をあげる。

知るわけない。

小さく首をふる。


「はぁ?トボケんじゃないわよ!あんたカホの彼氏たぶらかしてとったんでしょ!」


なるほど。

またこれか。

泣いている人はカホというらしい。


『お言葉ですが、私は先輩が誰と付き合っているのかも、その彼氏がどんな人なのかも一切存じ上げません。』


私が言い切ると、肌と肌が激しくぶつかる乾いた音がした。

私の顔は横を向き、頬は痛みで熱くなった。

私は前を向き直り言った。


『私は、何を言われても記憶にないことを謝ることはできません。』


叩いた先輩は強く私を睨んでいた。

いい人だ。

友達のためにここまで怒ることができる。

とても優しい人だ。


『それでは、授業がありますので失礼します。』


私は軽く頭を下げ、来た道を引き返した。


「ちょっと待ちなさいよ!」


後ろからヒステリック気味の声が聞こえた。

振りかえるとカホ先輩がこちらを睨んでいた。


「絶対に許さない。許さないから。」


小さい声だった。

けど、私にはよく響いて聞こえた。

恨みがとても含んでいる声だった。

頬の痛みが今更ながらひどく痛んだ。