吉右衛門、芳人、美智は他のテーブルへ挨拶周りへと行った。

「お爺様は初めから芳人さんに継がせるつもりだったんだね?」

「らしいな?」

「ねぇ美智さんのお祖父様の会社が坂井って事は…芳人さんは…」

「父さんは養子だよ。母さんはじぃ様の亡くなった一人息子の忘れ形見。母さんの小さい頃、海外で事故に巻き込まれて二人共亡くなってる。それ以来母さんはじぃ様に育てて貰ったらしい。じぃ様って言うより早和さんだな」

「早和さん?」

「うん。父さんの両親はじぃ様の所で住み込みで働いていた運転手の尾野与吉とお手伝いの早和の息子なんだ。母さんの両親が亡くなってからは母さんを早和さんが面倒見てくれたんだって。だから父さんと母さんは兄妹の様に育ったらしい」

「そうなんだ」

「こういう席には顔出さないけど今もじぃ様の所でじぃ様の面倒見てるよ」

「なんかドラマチックで素敵だよね?」

「はぁ?」

「だってさ!美智さんと芳人さん初恋だったって言ってたもん。まるでお姫様と召し使いの密かな恋じゃない」

「アホ!使用人だったのは父さんの親で、父さんは召使じゃないつうの!」

「アハハハそうでした。でも良いよね?初恋が報われるなんて羨ましいよ」

「……立花の初恋って誰?」

「え?」

「居るんだろ?初恋の相手?」

「うん…居るよ!でも報われそうもないなぁ…」

「どうして?」

「だって……」

立場も住む世界も違うし、何より私を恋愛対象と思っていない坂井君なんだもん…

「あっ私の事より坂井君は?坂井君の初恋ってひょっとして入学式に一目惚れしたって子?だとしてら私も知ってる子だよね?誰だろう?」