翼が壇上を降りると楽団の生演奏が始まり豪華な食事が運ばれて来た。

翼は席に着くとグラスの水を一気に飲み干し「さぁ食うか」とホークを持つ。

亜美はただ翼を見ていた。

「なに?食わないの?旨いよ?」

「…うん……吃驚して…喉に通りそうも無い……坂井君って凄い人だったんだね?」

「はぁ?」

「坂井グループって色んな子会社があるって事でしょ?そのトップに立つなんて…」

やっぱり坂井君と私では住む世界が違う…
さっき『何があっても俺が支えるから』って言ってくれた時、もしかして着飾った私なら少しは期待出来るかなって想ったけど…

「お前話し聞いてた?俺はまだ継がないって言ったんだよ?だからお前と同じ高校生」

「でも…」

亜美は言葉が続かなくて俯く。

「こちらのお嬢さんは誰だね?」

突然聞こえて来た声に亜美は顔を上げると向いの席に芳人に車いすを押された吉右衛門と美智が居た。

亜美は慌てて立ち上がると

「はっ始めまして、立花、立花亜美です。あ…あのお誕生日おめでとう御座います」と亜美は活き良いよく頭を下げる。

「亜美ちゃんは芳人さんの友人の立花さんの娘さんで、今うちで預かっているのよ。翼とは学校も同じでとてもとても大切なお友達なの」

美智はとてもとても大切なと強調する。

「かっ母さん!」

「ほぅ翼は勉強ばかりと思っていたがな?まぁいい事じゃ人の上に立つには勉強だけではダメだからな?」

「分かってるなら高校生の俺をトップに立てようなんて言い出すなよな!」

「アハハハ。血の繋がらない芳人に後を譲る事を皆んなに納得させるには手っ取り早かったじゃろ?芳人も断れなくなるしな?」

「かっ会長…」

芳人は吉右衛門の気持ちを知り目を見開き驚く。

「ホント食えないジィジィだよ!」