私はショックと悲しさで病室から飛び出した。

途中誰かにぶつかった。

「亜美ちゃん!?」

誰かが私の名前を呼んだ気がしたが私はごめんなさいと言って立ち止まらず逃げた。

今は誰にも会いたくない。顔を合わせたくない。

でも病院の正面玄関前で後から駆けて来た人に腕を掴まれた。

「亜美ちゃん!どうした!?何があった!?」

恭之助さんだった。

「恭之助さん…」

私は恭之助さんの胸に縋り付き泣いた。

恭之助さんはおいでと言って私の肩を抱いて病院の中庭のベンチに座らせてくれた。

「寒くない?」

私は首を横に振った。

「何があったの?」と言う恭之助さんに私は何も話せずにずっと泣いていた。

恭之助さんはそんな私が落ち着くまでずっと側で待っていてくれた。

「亜美ちゃん?俺は翼の兄貴変わりだ。そして亜美ちやんの事も妹の様に思ってる。何があったか話してくれない?」

私は恭之助さんの妹の様にという言葉に縋るように話した。

その間も涙は止まらず膝の上で握りしめていた私の手は涙で濡れていた。

恭之助さんはその手にそっと手を添えた。

「そうか… ごめんね?亜美ちゃんに辛い思いさせて?」と、言ってくれる。

恭之助の温かい手。

これが翼の手だったらどんなに嬉しいだろう…

「翼には毎日の様に亜美ちゃんの事を話して聞かせていたんだ。早く亜美ちゃんの事を思い出せる様にって…」

私の事を?

「でも、それがいけなかったのかもしれないね?思い出せない事に苛立っていたのかもしれない。亜美ちゃんに言った事は本当の翼が言った事じゃないんだよ?記憶が戻ったらきっと元の翼に戻るから、それまで待っていてくれないか?」

記憶が戻ったら元の翼に戻ってくれる?

私の事を好きだと言った翼に…

恭之助さんは送って行くと言ってくれたが、大丈夫と言ってひとりで帰って来た。