周囲の席のどこかから小さな悲鳴が聞こえた。どこかでカップが割れた音、さっきより増したすすり泣き声、ガタッと席を立って会計に走る音も聞こえる。
俺目当てで来ていた客が明日からごっそり消えて店長がガッカリするかもしれないけど、後の祭りだ。今の俺の最優先事項は、佳菜だから。
「……へ、あ、えと……ええと……」
俺の大事な女の子は、真っ赤な顔をしてうろたえている。
先輩から聞いた『メンタル強そう』な女の子の姿は見る影もない。
だけどそんな姿が可愛くて、愛しくて、大事にしたいなあと強く思う。
「あ、ありがとう……わ、私も俊くんのこと大事、だから……大事に、したくて」
じわ、と佳菜の瞳に涙がにじんだ。
それを見た瞬間、俺は佳菜の腕を掴んで席を立たせていた。
「へっ? しゅ、俊く……」
「もうあがるから。先に店出てて」
佳菜を店の裏口に誘導すると、店長に事情を話して少し早くあがらせてもらった。
店長は『俊ちゃんの“大事な女の子”、離しちゃダメよぉ』と快く送り出してくれた。
「佳菜!」
急いで身支度をして裏口に出ると、赤い目をした佳菜が落ち着かない様子で立っていた。



