俺は断じて何もしていない。
移動教室中に『どこ行くの?』って聞かれたから『音楽室です』って答えただけだ。
あとは他愛ない世間話を振られたから、適当に答えて相槌を打っただけ。世間話の内容すら覚えていない。
「お前のせいで俺らが別れたらどうしてくれんだ。ああ?」
知るかよ……。
教室前で凄んでくるガタイのいい三年を見て、クラスメイトの女子たちが怯えている。
俺のせいじゃないけど、俺のせいで迷惑かけてしまって申し訳ない。
面倒くさいけど、早くこの場を収めないと……。
「えーと……別れそうなんですか?」
「別れねえ!俺は絶対別れねえけど、アイツが……っ、とにかくなあ、ぜんぶお前のせいなんだよ!」
なんでだよ……。
なんとなく状況がわかってきた。
恐らくこの男は別れたくないんだろうけど、彼女の方が冷めてきてるんだろう。
そういえば世間話の中で『最近彼氏がめんどくさくてさあ』とか言ってた気がする。
どうでも良すぎて『はあ』しか感想が出てこなかったけど。
なんだか俺は、急激にぜんぶがどうでも良くなってきていた。
男とか女とか、彼氏彼女とか恋愛とか好きとか嫌いとかぜんぶ面倒くさい。
俺はハア、とため息をついて、目の前の先輩を見上げた。



