おずおずとトイレから出る。
近くで待ってくれていた俊くんは適当な場所に座っていたけど、もちろんレジャーシートは使っていない。
彼はパンフレットとスマホを両手に持って、何やら真剣に考え事をしているようだ。
トイレから出てきた私には気づかない。
……目の前に立っても、気づかない。
「…………………」
私は待つことにした。彼が気づくまで。
心の中でいーち、にーい、と秒数を計る。さて、何秒で気づくかな。
……さんじゅうさーん、と心の中で数えた瞬間、彼が今日何度目になるかわからない顔をして上を向いた。
「………え。いつからいた?」
「33秒前から」
「…………ごめん」
俊くんの顔は、今度は誰が見てもわかるくらい明らかに焦っていた。
私が、怒った顔をしているからだ。
「……ほんとにごめん、佳菜。バスまでの残り時間で、あとどれくらい回れるか考えてて……」
「…………………」
「……言い訳でしかないな。ごめん」
俊くんはパンフレットとスマホをポケットにしまうと、立ち上がった。



