彼はぴたりと立ち止まると、なんだか冷たく感じる背中で振り返った。
見えた瞳は暗く伏し目がちで、私をまっすぐに見てはくれない。
私は怖くなってきて、震えた声で「なんで……」と問いかけることしかできなかった。
俊くんは何かを言いかけて口をつぐみ、少しの間黙る。
いつもの、言葉を選んでくれている時間。でもその表情は、いつもと違って余裕がない。
「……さっき、一緒にいたの。ハヤトって奴、だよね」
俊くんの声は低かった。
「……そう、だけど」
「いつもあんなに距離近いの?」
責めるような声色に、心がズキンと痛んだ。
ヤキモチ焼かれて嬉しいとか、そういう気持ちはもうカケラも出てこない。
目の前の彼氏が、好きな人が、私に対して怒っている。
軽蔑されたかもしれない。そう思うほどに、普段穏やかな彼が、明らかに苛立った目で私を見ている。
それがこんなにも怖くてショックで、何も言えなくなるなんて思わなかった。



