「……何もされてない?」
そっと唇に触れられてびっくりする。
しゅ、俊くんの指が!私のくちに……!!
たぶんさっきのキス未遂のことだろうと気付いて、こくこくと何度も首を縦に振った。
先輩はきっと見えていたんだ。俊くんが走ってきてたこと。
だからわざとキスしてるように見せかけたんだろう。悪質すぎる。
「いやー、お前がそこまで焦るとはなあ。正直予想外だわ」
私たちのやりとりを見ていた先輩が、面白そうに笑っていた。
俊くんはムッとした顔をすると、無意識なのか私を抱きしめる腕の力を強めた。
「しゅ、俊くん。苦しい苦しい」
「!……ごめん」
一瞬、いつもの俊くんに戻った気がする。腕の力は弱められたけど、腕の中から解放はされなかった。
さっきは混乱して状況を把握できなかったけど、なんか抱きしめられてる。よくわからんけど抱きしめられてる。きゅん。
「……あの……なんで来てくれたの?」
今なら尋ねてもいいかなと思い、おずおずと聞いてみた。



