こうやってこいつと顔を突き合わせていたら、なんとなく一ヶ月前に言われた言葉を思い出した。
『ぜんぶ遠くから見てて思っただけだろ。実際に話したことあんのかよ!』
……ああ、なんだか馬鹿みたいだ。
突然フッと表情が消えた私を見て、隼がハッとした顔をする。
私の頬をつまんでいた彼の手が緩んだ。
「……佳菜?」
「……隼が言ってた通りだった。私、瀬戸先輩のこと何にも知らなかった。憧れだけで好きになって……馬鹿みたい」
隼が目を見開いたとき、クラスメイトのひとりに「佳菜ー」と名前を呼ばれた。
「呼ばれてるよ」
……へ?
呼ばれてる……?
既に私の頬から離れていた隼の手を少しズラして、教室のうしろのドアの方へ顔を向けた。



