「私も私の周りも、そんな風に考える人いないんだもん。良くも悪くも、目の前の楽しいことばっか追いかけてる奴らばっかりだから。自分にとって思いもしない考え方って、面白いと思うでしょ?」
「……………」
「だから俊くんの言ってること、面白いし納得したよ。でもねえ、私だったら……逆にワクワクするかも」
「ワクワク?」
「うん」と頷きながら、目の前の文庫本の背表紙にそっと触れた。
「世の中には、私の知らない世界がいっぱいあるんだなあって思う。知らない人が、私じゃ考えつきもしない目線を持ってて、それを披露してくれてるんじゃん?それってすごいことだよね」
見方を変えたら、この本屋は『楽しい』の宝庫だ。
きっと私のまだ知らない面白いことがたくさん眠っているに違いない。
隣を見ると、黙って私の話を聞いてくれている俊くんと目が合った。



