「悪魔フルカス……邪悪なるものよ……」

パジャマが焼けるのも気にせず、イブは杖を手にフルカスにゆらゆらと近づく。
最初こそ足取りは重かったが、徐々に早くなり、最終的に地を蹴って高く飛んだ。

「浄化されしものは、お前の方だああああああああああああああ!!!!」

イブは紅い満月を背後に、フルカスへと杖を振りかざした。

「ははははははは!貴様も愚か者だったか、魔女よ!」

フルカスは高笑いをあげ、炎の鎌を振りかざす。
その瞬間。

ウンディーネ!

……一瞬、何が起きたか、わからなかった。
自慢の炎の鎌は刃が真っ二つに折れ、カランと切っ先が地面に落ちた。

「み、ずの、鎌……だ、と?」

そう、イブの手にはガラスのような透明な鎌が握られていた。
しかも、刃の部分だけやたらと巨大な。
イブは何食わぬ顔で地に着地し、鎌を一振りする。
すると鎌が水に戻り、地面に大きな水たまりを作った。
その頃、フルカスは。
本人の愛馬と共に縦に亀裂が入り、身体が上下にずれるとともに黒い灰となって空へと昇って行った。
主人のいなくなった炎は、それと同時にすっかり消え失せ、残ったのは消し炭となった住居のみ。
そんな中、イブは満月を見上げて佇んでいた。


悪魔事件があった、夜明けの頃。
イブは大きなキャリーバッグを手に、町を背に歩いていた。
もちろん、身なりは整えて。

「……だまって、いっちゃうの?」

「うん、しばらく旅に出ようと思うんだ。狙われているのは私だし、それに……」

イブが振り向くと、顔はいつもの子供に戻ったにもかかわらず、その黒かった瞳は金色、瞳孔は細いままだ。

「こんな顔じゃ、怖いだけだしね……て、え?」

ゆっくりと顔を地面に向けると、赤い大きな花。
葉の隙間からあどけない瞳がちらりと見上げている。

「どれいくさん!?」

「まじょさまは、やっぱりわたしがいないといけないの。アイボーはひっすなの。」

イブは、心の奥が熱くなるのを感じた。
寂しさで真っ暗だった心の中に光がさした、そんな気分だった。
破顔しながら涙を流すイブ。

「うん…うん!そうだね!よろしくね、どれいくさん!」

「ところで、たびのあてはあるの?」

「あ、えーと…」

困ったようにはははと笑いながら頭を掻くイブに、どれいくさんはため息をついた。

「……まったく、だめだめまじょさまなの。」

はてさて、どうなることやら。

続。