あまの邪鬼な暴君




「よお、ブス」

「あ……いっちゃん」



げんなりして、垂れてしまう頬を引き締める。

ちょっと私の反応が遅いだけで、いっちゃんはすぐ不機嫌になるので、対応は丁重に行わなければならない。

おはよう、と私が挨拶をすると、いっちゃんはニィっと口角を上げた。


今日はなんだかご機嫌だなぁ。



「ハッ、てめーは今日もクッセエ顔してんのな」



彼の言う「クセエ顔」とは、「辛気くさい顔」という意味の言葉である。

彼の私への刺の含んだ言葉は、いつものことだから別に気にしない。



それよりも。



「……別に好きでこんな顔なわけじゃないよ」



ワイシャツの襟からチラリと見えた、彼の首筋に浮かぶ赤い跡に胸がチクリと傷んだ。


ああ、だから機嫌が良かったんだ。



「ああ”?」

「な、なんでもない、です」

「………チッ」



舌打ちをして、頭をぺしっと叩かれる。



「いたっ……な、なんで叩くの!」

「ムカついたら」



理不尽すぎるいっちゃんに、一言言い返してやろうと思ったけど。


ばちり。


周囲から鋭い視線を感じて、私は急いでゆーくんから距離を取る。



ここ、高校の近くの道だった。



「ああ?てめ……」



不機嫌に歪められた表情に、思わず足がすくんだ。

けど、私は頑張った。



「わ、私日直だったんだ!じ、じゃあ先行くね!」

「はあ"?オイ!」



何か物言いたげないっちゃんに、気が付かないフリをして駆け出した。



「なんだよ。てめぇ覚えてろよ、ブスズ!」



背後から聞こえるいっちゃんの怒鳴り声に、涙目になる。



(大きい声で、私のこと言わないでよ……!)



走って道を通り過ぎるとき、私と同じ制服を着た、名前の知らない女の子に睨まれて、いっそ泣きたくなった。



……この世は理不尽でまみれている。



「まあ、睨みたくなる気持ちは分かるけど」



私の幼馴染みのいっちゃんは、口も態度も性格も悪い。

けれど、鼻が高くて、男子のくせに肌キメ細かくて、髪の毛はサラサラで。


(……今はワックスつけてツンツンだけど)



まあ、それは置いといて。



「ねえ斉賀くんだ、カッコいい……」

「ほんとだ、朝から見れるなんてツイてるね!」



だから、いっちゃんはとってもモテるのだ。



「………」



そんなカッコいい彼の「幼なじみ」が、平々凡々の私だなんて。



「ブス、ブス、言うな……バカいっちゃん」



ほんとうに、世の中は理不尽だと思う。