――東京行きの話が来たとき、3人は揃って「行け」と言った。





“行けよ!え?なんで行かねーの!?行くだろフツー!”





アキラはとにかく「行け!」と言い、俺の言い分なんて全然聞く耳持たず。挙句思いっきり俺をグーで殴り倒して、「行かなきゃ殺す!」と、そう言った。





“何百曲と合わせてきたんだ。今更お前の思ってることなんて、手に取るように分かるぞ。だから、俺の言うべきことは決まってる。「大丈夫だ、行って来い」”





ブラウンは、色々なことを言い澱み続けた俺を諭すように「行って来い」と、そう言った。





“カイトのギターも、曲も、歌詞も、カイトも、私大好き。でも…ううん、だからこそ、「行かないで」なんて、言えるワケない”





リルハは少し涙ぐんで、「だから、行って」と、そう言った。





3人とも、本当に俺のことを思って言ってくれてたんだと、今になってそう思う。







そんな3人の思いを、もう少しで裏切ってしまうところだった。





――最後にトン、と背中を押してくれた、彼女の言葉がなかったら。





今、この時間は、流れてない。





「リルハ!名前決めた?男だったらどれにすんの!?」

「あァ、昔言ってたなァ、『3人のうち、誰かの名前を子供に付ける』って」

「え?リルハそんなこと言ってたの?」





だから――彼らにするのと同じくらい、彼女にはいくら感謝したってしきれない。





「アハハ!でも『ブラウン』は却下だね。ざーんねん」

「だっはっはっはっ!そりゃそうだ!ざまぁブラウン!」

「ヨシ。表出ろアキラ」

「は!?何言ってんのブラウン!」





ありがとう。





「おーおー懐かしいな。またアバラ折られたいのかブラウン?」

「最後に折ってやったのは俺だ」

「今何勝何敗だっけ?いけいけー!」

「リルハもアオるのやめて!おじさんお勘定お願いしまぁす!」






ありがとう、美和。

ありがとう、みんな。





今度、紹介しようと思う。





彼女と同じくらい大切な彼らを。

そして、

彼らと同じくらい、大切な彼女を。




fine.