国重界人(クニシゲ カイト)は、2つ下の幼なじみ。





小さい頃から大人しくて、弱っちくて、泣き虫で。




上級生にいじめられては、いつも公園の隅のブランコで泣いていた界人。





私の覚えている昔の界人は、いつもいつも泣いていて。




私が「帰るよ」と声をかけると、界人は涙をぎゅっと拭って「うん」と笑う。





界人同様幼かった私は、その笑顔に大層イラついていたのを覚えてる。





“界人さぁ”

“うん”




“なんでヘラヘラ笑ってんの”

“え…”




“弱っちくて、泣き虫な界人、かっこ悪い”

“うぅ…”




“負けてるクセに笑ってる界人は、もっとかっこ悪い”

“うえぇ…”





──何度そう言って、泣かせたことか。





あの頃の界人は背も小さくて、なよなよしてて。ガキ大将の子にくっついている子分その2的な立ち位置がぴったりな、ひ弱な男の子だった。






「懐かしいなァ!中2の時に俺が引っ越して以来だから…えぇっと、何年ぶり?」

「6、7年くらいかな」






「なんでここに?家近いの?あ、そのカッコ!もう就職したんだ?まだ実家に住んでるの?あ、デザート食べる?サービスするよ!店長ぉー!」

「あ、ちょっと、界人?」






あの頃の弱っちい界人は、もういないみたいだった。早口で捲し立てながら風のように厨房に消えていった界人の背中は、私の記憶の中の彼よりもずっとずっと、大きかった。





「──相変わらず…ってほどでもないなぁ」





7年あれば、人はいくらでも変われるのだ。




でも、変わらない部分も、確かにある。




界人の優しげな笑顔と声だけは、全くもって変わってない。




変わらない部分と、変わらないで欲しかった部分が、同じだったという事実。




界人の出で立ちが随分変わってしまったことなんか、どうでもいいとすら思えた。




それほどに、界人との再会は、私の心を強く沸き立たせたのだった。