勘違いとはなんなのか

派遣だから、という名目で、自分がやった仕事を、他人がやったと誇ることを黙って見ていなければいけないのか


ヒナは言い返したい衝動にかられた

けれど、あまりにばからしくて、やめた

それに、ヒナが作ったこの資料を、誰かが会議室に届けなければいけないのは確かなのだ

自分がやった、と周囲に認めさせたいがために、これ以上無駄な時間を使うのも、おかしな話だ――ヒナはそう思った。

「じゃあ……お願いします」

「わざわざヒナさんに言われなくても大丈夫ですよー。じゃ、行こっ!」

ヒナがひとりでかかえていた資料を、何人かで手分けして持った女子社員たちが、はしゃいだ様子で廊下へ出て行った――



――と思いきや、戻ってきた。

「なんだきみたちだったのか?! まったく、遅すぎるよ!」
「え、え、だからあ……」
「資料がないからと会議にならなかったんだぞ!」
「資料をつくっていたのはヒナさんでぇ……あの、あたしたちも、こんなに遅れて大丈夫なのかなーって思ってたんですけどぉ〜」

いうなり、資料をかかえた女子社員たちは、ヒナのほうにかけよってくる。

「ヒナさんの資料作り、遅すぎるって!」
「遅くなりそうなときは言ってくれればあたしたちも手伝えるんだからさー」
「次からは気をつけてね!」

つい先ほど、彼女たちが喜々として奪い取っていった資料が、ヒナの手に戻ってくる。抱えきれずに腕からあふれた資料が、ばさばさと床に落ちた。

「まったく……ああ、すみません兼森さん」

――兼森?!

その名前に反応して課長が話しかけているほうをみたヒナと、課長の影からひょいと顔を出したタイガの目があった。

「ご覧の通り資料は用意できていたんですが、ちょっと持ってくるのが遅くなったみたいで……重要な会議だってことがわかってなかった派遣さんなんで……」
「彼女が――重役会でいつも使っているあの資料を作成していたのは――彼女だったのか?」

タイガが、まさか、という目でヒナを見た。