壁にかけられた時計がさす時刻は、すでに午後の始業時間を15分ほど過ぎているというのに、ランチから戻ってきても飽かずにおしゃべりを続けている女子社員たち。
それを横目にヒナは、作り上げたばかりの資料のコピーと、ホチキス止めを終える。

「ヒナさーん」

すると、ヒナのことなど目のはしにも入っていないと思っていた女子社員たちが、突然ヒナのほうにかけよってきた。

「お疲れ様でーす!」
「それ、会議室に持って行くんですよね?」
「あとは私たちでやりますから〜」

断る間もあらばこそ、コピーを終えたばかりですこしあたたかい資料を、ヒナの両手からがばとうばっていく。

「あとはって……」

あとは会議室に持って行くだけ。
おそらく、この資料を作ったのは自分たちだという顔をして、会議に出ている重役たちに配るつもりなのだろう。

「もう手伝ってもらうほどのことは残っていないです」

手柄がほしいわけではない。だが、自分のやったことをわがもの顔でうばっていく彼女たちへの嫌悪感が、ヒナを強気にさせた。

「課長から頼まれたのは私ですし。あとは、私ひとりでできますので」
「でも、ヒナさんって社員じゃないじゃないですかー」

社員? ああ、正社員……って、こと……?
ヒナが一瞬意味をつかみそこねている間に、相手はかさにかかるように言葉を続けた。

「ほらあ、さっきタイガさん――兼森事業部長となにか話しこんでたじゃないですか? それだからってちょっと勘違いしてほしくないんですけど、派遣のひとが、重役会議やってるところに入るのって、ちょっと問題じゃないかなーって」

そう語る彼女の顔には、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。