「えっ?」
「信用できん」
「もう……いったい何を話せば信用してもらえるんですか? あの、私、そもそも後継者選びなんて……」
「だいたい、話がうますぎるだろう。婚活していたら、ちょうど、後継者を探していた惣右介会長と知り合って……だと? だいたい、社員とはいえ、バーで知り合っただけの女に、自分の会社をまかせる相手を選ばせようなどとは、いくら惣右介会長でも突拍子もなさすぎる。本当に、バーで知り合っただけか? もしかして……」

タイガはそこまで言って、はっとしてヒナの顔を見直した。
けれど、遅かった。

「……いい加減にしてください!」


ヒナがソファから立ち上がる。

「会長室であったときも、今も、タイガさんは、私のことをいったいなんだと思ってるんですか?! 最低です!!!」

向かいに座っていたタイガが、その手を掴みひきとめた。

「話はまだ終わっていないぞ、座れ!」
「私に命令しないでください! タイガさんにそんな権利はありませんん!! 午後に間に合わなければならない仕事があるんです、失礼します!!!」
「そんなもの、どうせ大したことじゃないだろう! 俺の話を……」
「事業部長であるタイガさんにとっては大したものじゃなくても、私にとっては、私にまかされた、やらなければならない大事な仕事です! 私がそれをやらないと、困るひとがいるんです!」

ヒナは、タイガの腕を振り切り駆け出した。