「何かあったの?」

好奇心が全身から湧き出ている悠耶さん。

「ずっと娘が欲しかったのよね~。一緒に買い物行って お洋服見て、疲れたらお茶して~… 」

あたしも義理のママが悠耶さんだったら、どれだけ嬉しいことか。

でも そんなシンデレラのような大役が回ってくることなんてあたしの人生にはないだろう。

只でさえ ここ数日、二人とはまともに話をしていないのだから。

こんなにも苦しいのなら自分の気持ちに鍵をかけたままの方が良かったのかもしれない…

窮地に追い込まれると人は思いもよらない行動を取っちゃうって本当なんだなー、

これが火事場の馬鹿力ってヤツねと冷静に分析する一方で
殆どは「あぁぁぁぁ~!」な感情で埋め尽くされていた。

娘が暗い表情になったのを気付いたママはベッドに腰掛けると優しく肩を抱いてくれる。

「絹?せっかく病気も治って、“お兄ちゃん”も見つかったんでしょ?残りの夏休み 楽しまなきゃ」

幼い頃はお兄ちゃんと手をつないでお散歩したり、一緒にお昼寝したり それだけで幸せだったのに。

今はみんな別々の未来を歩いているみたい。

それは子供じゃないから当然なんだけれど、あたしの気持ちだけがずっと振り出しのまま…

「当たり前じゃん!夏はまだまだこれからだもん♪」

あたしは彼に会ってどうしたかったの…?

行き場のない不安感を抱えながら、作り笑いをしてみせる。

あたしも あの頃より“オトナ”になっちゃったのかもしれない…