「驚いたけど、嬉しかった…」
一瞬にして心のゲージが満たされるのを感じた、本当一瞬だけ…
彼は視線をどこか遠くに向けたまま、言葉を続ける。
「だけど 絹を喜ばせる返事はできない。
今は他にもやらなきゃいけないことがあるから そっちに集中したい。ごめんな」
知ってるよ、休みもまともに取れないくらい甲ちゃんの腕を必要としている患者さんは沢山いるってことくらい。
ニ人の隙間を通る風がなんだか冷たく感じる。
暫しの沈黙の後、恐る恐るだけどあたしから素直な気持ちを話すことにした。
「あたしは…」
「ん?」
「甲ちゃんと貴とママ達がいる生活がいつの間にか当たり前になってて…」
甲ちゃんが“拠り所”て言ってくれたおうちがあたしも大好きなの。
もう一度信じるから。受け入れてくれるよね?
「だから付き合ってなんて無理は言わないけど…
でも、もしパパのことや過去のことを思い出して苦しくなったら その時は隣にいさせて」
そこまで言った時、肩に重たさを感じた。
「そういうの やめて」
「え…?」
僅かに耳に届いた声に、横を向いても長い前髪が邪魔して表情が見えない。
「… 泣きそうになるから」
その時、あの事故で傷ついた少年の甲ちゃんを見た気がした。
あたしの前ではいつでも強いお兄ちゃんを演じてくれたけれど
心の支えにしていた人を、しかもニ人も目の前で失った悲しみは
まだ十代だった甲ちゃんには計り知れないくらい重たいものだっただろう。
一瞬にして心のゲージが満たされるのを感じた、本当一瞬だけ…
彼は視線をどこか遠くに向けたまま、言葉を続ける。
「だけど 絹を喜ばせる返事はできない。
今は他にもやらなきゃいけないことがあるから そっちに集中したい。ごめんな」
知ってるよ、休みもまともに取れないくらい甲ちゃんの腕を必要としている患者さんは沢山いるってことくらい。
ニ人の隙間を通る風がなんだか冷たく感じる。
暫しの沈黙の後、恐る恐るだけどあたしから素直な気持ちを話すことにした。
「あたしは…」
「ん?」
「甲ちゃんと貴とママ達がいる生活がいつの間にか当たり前になってて…」
甲ちゃんが“拠り所”て言ってくれたおうちがあたしも大好きなの。
もう一度信じるから。受け入れてくれるよね?
「だから付き合ってなんて無理は言わないけど…
でも、もしパパのことや過去のことを思い出して苦しくなったら その時は隣にいさせて」
そこまで言った時、肩に重たさを感じた。
「そういうの やめて」
「え…?」
僅かに耳に届いた声に、横を向いても長い前髪が邪魔して表情が見えない。
「… 泣きそうになるから」
その時、あの事故で傷ついた少年の甲ちゃんを見た気がした。
あたしの前ではいつでも強いお兄ちゃんを演じてくれたけれど
心の支えにしていた人を、しかもニ人も目の前で失った悲しみは
まだ十代だった甲ちゃんには計り知れないくらい重たいものだっただろう。

