RE. sEcrEt lovEr

「キンカちゃん」

帰国した日、彼はあたしのことをそう呼んでいた。

血だらけのシャツには驚かされたけれど、笑顔はあの頃と何も変わっていなかった。

変わったのは、月日を重ねて真実が明らかにされたこと。

でも、また会えなくなっちゃうの…?

「絹香ちゃん、どうしたの?!」

廊下をトボトボ歩いていると、椎名先生に声を掛けられた。

「…っ!」

一言でも声を発すると涙まで溢れそうになり、ぶんぶん首を横にふる。

「…まだ走っちゃダメよ?日向くんがキレイに治してくれたんだからね、ゆっくり 急いで行って」

何かを察した椎名先生は無理には引き留めないでくれた。

身体に負担をかけないように“ゆっくり”、さっき示されたルートをタイムリミットに間に合うよう“急げ”、あたし!

入院してからこんなにも自分の足で歩いたことはあったかな。

すでにリハビリで歩く距離は軽く上回ってる。

それでも前よりは普通に歩けている。

あなたの“患者”でいるのもあと少し。

そう思っていた矢先、階段を踏み外し膝を赤く染めた。

前 階段から落ちた時は、甲ちゃんがいてくれたけれど これからは一人。 自分の足で歩かなきゃ。

さっきまで堪えていた涙がストッパーを外したように溢れていく。

「…っく」

だけど… あなたが今度こそ過去を乗り越えて先を歩くなら、笑ってバイバイしなきゃ。

この非常階段を降りたら、もう泣かない!

そう心に誓い、再び立ち上がった。