RE. sEcrEt lovEr

「ねぇ、何で」

「絹。今日は検査なかったよな?今から三十分後に東館の裏に来て」

あたしの言葉を遮って甲ちゃんが話を進める。

それ程、ここでは話せられない急ぎの大事な用件ということがあたしにも分かった。

「今いるのが、ここね。で、ここまで降りたら外来棟があるから…」

机に広げられた院内地図は小さく折り畳まれた跡があり、彼の指がその上をなぞりながら経路を導く。

しかし甲ちゃんの指差す東館という建物には“研究棟”と書かれている。

「ちょっと!こんな所に部外者が行っても」

「用事あるから先行くねー」

聞いてない…

あと三十分… 手術を受けたとは言え、この体力じゃもう病室を出て歩き出した方がいいのかもしれない。

でも そこで待ち受けているのは ここにいる“患者”の退院を待たずに辞めちゃうことへの言い訳?

それとも さっきの看護師さんとの…?

今行かないと後悔しちゃう。 あの頃みたいに、もう会えなくなっちゃうかもしれない。

そう頭の奥の奥では分かっているのに現実から目を背けているのはあたし自身。

「何であたしばかりが…」

何で振り回されなきゃいけないのよ!

両手で髪の毛をくしゃくしゃに掻き乱す。

何枚も上手で、こっちは白旗上げてるっていうのに それでも手を抜こうとはしてくれない。

ふと顔を上げると、時計と目が合う。

もう時間だぞって急かされているみたい。

「ばかぁ…」