しばらくして呼吸が落ち着いてきた頃、扉がノックされる音がした。

咄嗟に身体を離そうとするが、貴の腕に力が入り余計に引き寄せられる。

「…あ、悪い。出直すわ」

扉の向こうの甲ちゃんと視線がぶつかるが、もう遅い。

完全に誤解しちゃっている…

兄にわざとみせつけるような真似をする弟の真意が全くわからない。

応援してくれたのは嘘だったの?

それに甲ちゃんも何でこんな時だけ空気読むの!?

「ちょっと!何で?」

「キスくらい見せつけてやれば良かったな」

苛立ちを露にするあたしを更に鼻で笑う貴。

「は!?何言って」

「お前の悩みって甲ちゃんと発展がないとか、貴がいなくなって寂しいとか大方そんなんじゃねーの?」

「…っ!」

的を得た答えがストレートに胸に突き刺さる。

「取られて困るなら、あいつから動くだろ?」

「それはないよ。だって 初恋… やっぱり実らなかったもん」

あたしの心の奥底にしまいこんでいた大切な思い出や気持ちが

甲ちゃんにも同じようにあって それはあたしじゃなかった、ただそれだけ…