いちいち言葉を発する前に間があるのは、あたしの言葉を理解しようとしたが、わからないためまだ聞こう、という間だろう。


あたしがきちんと説明すればいいというのはわかるのだが、それが面倒なのだ。



ここはウサギの質問にひとつひとつ答えていくべきか……



「あ、あった」



いつの間にか14年前の事件が集められた資料の前に来ていたようだ。



「ちぃちゃん?」


「ウサギ、説明はまたあとだ」



あたしはその場にしゃがみ込み、資料を見入った。




「……まだ足りない」



ここに置いてある資料すべてを見尽くしたが、あたしが求めている情報は何ひとつなかった。



「ちぃちゃん、終わった?」



……ウサギの存在を忘れていた。



「一応すべて見終えた」


「さすがだねー。これだけの量を30分で目を通すなんて」



ウサギはあたしのまわりに散らかっている資料の山を見て、感心している。



「それで。成瀬一弥って誰なの?」



やはり忘れていなかったか。


仕方ない。


説明しておこう。



「成瀬一弥は乱魔の本名だ」


「いつ知ったの?」


「乱魔の隠家に潜入したとき」


「もしかして、14年前の事件が乱魔を捕まえるヒントかなにかってこと?」



なかなか鋭いな。



「そうだ。だから、ここに来て調べたのだが……」


「めぼしい情報はなかった、と」



あたしは首を縦に振る。



「それ、どんな事件?」


「殺人事件だ」


「うん、それはわかってる。詳しい情報が知りたいんだけど」


「2人が自宅でナイフで殺されていた。第一発見者は成瀬一弥だ。だが、遺体を見て、1度逃走したらしい」