「捕まえる自信、なくなったな……」



誰にも聞こえないようにつぶやいたつもりだったんだが。



「え!?そんな、あのちぃちゃんがそんなこと言うなんて!」



ウサギがいち早く反応した。


というか、『あのちぃちゃん』ってどんなあたしだ。



「だって、ウサギに負けたんだぞ?そんな状態で乱魔を捕まえられるわけがない」



すると、ウサギが頭を軽く叩いた。



「えっ……?」


「ちぃちゃんのバカ!」



ウサギはそう言ってどこかに走っていった。



「……はぁ!?」



まったく状況がのみ込めない。



「知由、雪兎がどっか走っていったんだが、なにがあったんだ」



正広があたしの顔をのぞき込むように近くにしゃがんだ。


視線がわずかにあたしの方が上になる。



「わからない……」


「じゃあ、雪兎になにを言ったんだ?」


「ウサギに言ったわけではないんだが、『捕まえる自信がない』とつぶやいたんだ。それをウサギは聞いていたらしく……それと『ウサギに負けたのに、乱魔に勝てるわけがない』とも言ったな。そしたら、あいつあたしの頭を叩いてどこかに行ったんだ」


「そりゃ、雪兎も怒る」


「なぜだ」


「雪兎はお前と勝負してたわけじゃないんだぞ。ただ一緒に捜査している、相棒だと思ってるんだ。それなのに、負けだとかそんなこと言われたら誰でもショックだ」



……あたし、ウサギの気持ち、考えていなかったのか……?


でも……



「知由。お前は雪兎とどうしたい」



どうしたいと言われても……



あいつはいつもあたしの隣にいたし、たくさん心配してくれた。


義兄妹だが、ウサギはまるであたしの父親のような存在で。


いなかったら、やはり寂しいのだ。



「あたしはウサギと一緒にいたい」



今さらウサギなしの人生など、考えられない。


あいつがいるから、学校で1人でも平気だし、頑張れる。


あいつがいなかったら、あたしは今ごろどうなっていたかわからない。


あたしの人生はあのとき、再スタートしたんだ。


1人でいい、なんてことはもう言わない。


というか、言えない。


ウサギがあたしの生きる意味になっている。



「なら謝ってこい。そんで、一緒に捕まえようって言ってやれ」


あたしはうなずいて椅子から腰を上げる。



「廊下でうずくまってるはずだ」



廊下に出ると、正広に言われた通り、ウサギは端の方で丸まっていた。


「ウサギ」