これを『運命の恋』と呼ばないで!

涙に暮れながら家に帰った。
お風呂にも入らず、メイクも落とさずに泥の様な気持ちを抱えて眠った。

翌朝、目覚めるとLINEの画面に鬼からの質問が入っていた。


『無事着いたか?』


時刻は別れて1時間くらい後だった。
底なし沼のように深く傷つき過ぎて、着信音が鳴ったのにも気づいてなかった。


『気づくのが遅れました』

『昨夜きちんと家に到着してます』

『返事が朝になってすみません』


平謝りのスタンプを添えて送った。
先輩からは、何の文字もスタンプすらも送られてこなかった。


(当たり前だよね。私のことを嫌ってるんだもん)


このLINEの文字だって、指導係として仕方なく送ってきてる。
今頃は私の返事を読んで「早く返してこい!」くらい呟いてることだろう。



(あーあ、仕事行きたくないなぁ)


そう思いながらもノロノロと支度をして出勤した。

先輩に何か言われるだろうかと心配していたけれど、お咎めもなく安心した。
でも、それが返ってホッとするよりも寂しいって気持ちにさせられる。


昨日の青空先輩の笑顔は何だったんだろうって思う。

笑うとあんな風に目尻も下がるんだと初めて知った。

事務職の筈なのに腕の力はちゃんとあって逞しかった。

微かに凭れた胸の板は意外にも広くてときめいてしまった。

なのに、そんなことすら忘れさせる様な言葉を平気で吐かれ、ドン底まで傷つけられた。


そんな人と残業なんて嫌だ。
だから、今日からは絶対に早く帰ってやる。



ーーそう誓ったのに無能な頭は捗らず、結局また残業する羽目になってしまった……。