溺れる恋は藁をも掴む

 誠治さんとは、映画が公開されるまでは、メールなどを交換しながら過ごした。

 妹さんはプレゼントを大喜びしてくれたみたいだ。

 『お兄ちゃんにしてはセンスいいじゃん!』
って言われたよ。

 なんて嬉しそうなメールが来たりもした。

 毎週会えるまでの関係でもなかったし、会社帰りに待ち合わせして、ご飯もなかった。

 ただ、ひたすら映画の約束は楽しみにしていた。
 
 友達のラインだもんね……
仕方ないよ……


 

 ーー映画が公開した翌週の土曜日ーー
 
 誠治さんの仕事が落ち着いたみたいで、やっと会える事になった。


 約、一ヶ月ぶりに会う誠治さん。


 「やぁ、華ちゃん」

 「誠治さん」

 メールをやり取りしながら、少し進展した事は、黒崎さんから誠治さんって呼ぶようになった事。


 映画が始まる前に、ファーストフードでお茶しながら、上映時間を待っていた。

 「岬エリカってAV女優だったんだね」

 「そうですね」

 「この映画は凄い抜擢らしいね」

 「えぇ。
原作が過激過ぎて、この映画の主役を大物女優がオファーを断ったらしいんですよ。

 『目の前にチャンスがあるのなら、この手を伸ばして掴みたい』って、雑誌のインタビューに載ってました。

 最初から知名度がある女優じゃない岬エリカが、この役を演じるのは凄いんですよ!

 藁を掴むような思いで、必死だったんだろうな………」

 「そうだね。
楽しみだね!
女優魂ってやつだろ?
仕事に必死になれる女性って凄いよね」

 「私も楽しみです。
岬エリカは、『裸の女神』って呼ばれてるんですよ」

 「裸の女神?」

 「裸が綺麗な女性って意味と、裸一貫からやり抜いた、根性女優って意味があるらしいんです」

 「裸の女神か…」