溺れる恋は藁をも掴む

 百合と過ごした時間は、禁句にさえ触れなきゃ、順調に進んでゆくもんだと思っていた。

 百合は店に行く前は、必ずテキストを開いて、高等学校卒業程度認定試験の勉強を真剣にしていた。

 これが受かれば、百合との新しい未来がまた開かれると信じてた。

 秋になって、その試験を受けて、百合は合格した。


 「私には、知らせる家族が居ないから、晶に一番に報告だよ!」

 百合は嬉しそうに言った。


 俺……
いつも自分の事ばっかりで、百合の事を余り知らない事に、その時に気づいたんだ。


 「家族が居ないって、どういう事?」

 「勘当されてんの」

 百合はその一言で済ませようとした。

 「どうして?」

 俺は聞いてはいけない雰囲気の中、やっぱり気になってさ……つい……

 「親に、顔向け出来ない事してんの。
訳は聞かないで!
辛くなるから……
 話せる時がきたら話すよ」

 百合の顔を見ていたら、これ以上聞いたらいけないと思った。

 でも、それが心にずっと引っかかっていた。

 だけど、聞けなかった。
多分、これも禁句なんだって思った。

 無理に聞けば、百合が離れてしまう気がした。

 聞くのも怖かったんだ。